新しくなった〈横浜美術館〉が「横浜トリエンナーレ」で再始動!|青野尚子の今週末見るべきアート
ルンギスワ・グンタの作品は有刺鉄線によるインスタレーション。黄色や緑の有刺鉄線が絡み合い、空間を占拠する。作者は南アフリカの出身。この作品の背景には同国における植民地主義による不平等や不均衡がある。有刺鉄線には布が織り込まれている。攻撃的にも柔らかくも見える作品だ。
ストリートでのアートを一つの表現形態としているSIDE COREの作品はいずれも屋外空間に展示されている。そのうちの一つ、横浜美術館の外壁に描かれたペインティングには「BROKEN WINDOWS PEOPLE」と書かれていた(3月15日時点、現在はない)。1980年代、犯罪が多発していたニューヨークでジュリアーニ市長は、割れた窓や壁の落書きを放置せず修繕することで治安を向上させる「BROKEN WINDOWS THEORY」(割れ窓理論)によって犯罪を減らすことに成功したが、ここではその理論に対する批判が投げかけられている。このように、会期中、この作品では路上を題材とした絵や詩が次々と登場する。
●横浜市認定歴史的建造物〈旧第一銀行横浜支店〉
SIDE COREのもう一つの作品が設置されている〈旧第一銀行横浜支店〉はY字路に建つ関東大震災の復興建築。清水建設の小笹徳蔵と第一銀行の西村好時の設計で1929年に完成、2003年に曳家(ひきや)により移動して〈横浜アイランドタワー〉の低層部に組み込まれた。そのバルコニーに設置された大きなスクリーンには交通整理をする誘導員の姿が映し出される。ともすれば見過ごしてしまいがちな光景だけれど、私たちとは違う形で都市と関わる身体の存在を浮かび上がらせる。
●1926年生まれの帝蚕倉庫の一棟を復元した〈BankART KAIKO〉
〈旧第一銀行横浜支店〉近くの〈BankART KAIKO〉は1926年に建てられた帝蚕倉庫の1棟を復元したもの。その建物の脇に、生糸が実際に保管された場所を復元した地下空間がある。今はガラスに覆われたその床の下に人がいて、ガラスに絵や文字を描いているように見える。これはガラスの下に設置されたモニターに映し出されたSIDE COREの作品だ。つい通り過ぎてしまう足元からメッセージが発せられている。街の見え方が変わってくるアートだ。