新しくなった〈横浜美術館〉が「横浜トリエンナーレ」で再始動!|青野尚子の今週末見るべきアート
オープングループは2012年にウクライナで結成されたアーティスト・グループ。2022年に制作された《繰り返してください》では人々が「ウーーーーー」といった音を発している。登場しているのはロシアのウクライナ侵攻に伴い、難民キャンプへと逃れてきた人々だ。ヘリコプターなど兵器の音を聞き取り、避難マニュアルに応じてどう行動すればいいのか、その音を繰り返すことで学習している。「繰り返してください」とは外国語を学ぶときの決まり文句だけれど、ここでは他国の人々とコミュニケーションをとるためではなく、他国からの攻撃から生き延びるためにその学習方法が採用されている。
ピッパ・ガーナーの彫像はさまざまなジェンダーや年齢、人種の人々のパーツが組み合わされたもの。作者は消費社会で広告に登場する理想化された人々のイメージに違和感を覚え、1960年代から先鋭的な作品を制作してきた。社会には多様な人々がいて、一人の人間の中にも複数のアイデンティティが存在することを訴える。
ゴミ袋に入れられた人が捨てられている。このショッキングな作品はアメリカの作家、ジョシュ・クラインの「失業」シリーズのもの。AIなどの技術革新や社会の変化で20年後にはなくなってしまうかもしれない職業がモチーフだ。「失業」シリーズでは弁護士、会計士、銀行員、秘書などが“捨てられて”いる。憧れの職業であっても明日はどうなるかわからない、そんな時代を反映している。
2段ベッドが並び、荷物が満載の部屋を再現したインスタレーションは你哥影視社の作品。2018年に待遇改善を訴え、寮でストライキを行ったベトナム人女性たちに着想を得たものだ。このストの様子はFacebookでライブ配信されていたのだが、ストライキの場面だけでなく、彼女たちの日常の様子も映っていた。鑑賞者はベッドに座って好きなように時間を過ごすことができる。
会場で2日間限定でパフォーマンスを行っていたのはミルテ・ファン・デル・マーク《恍惚とした存在》という作品。女性の動きはバウハウスのマイスターだったヨハネス・イッテンが授業に取り入れた体操に基づいている。その体操はゾロアスター教に基づくものだった。それはリズミカルな動きで歌い、内なるエネルギーを導く儀式だ。