【2025年期待の一頭】馬なりで32秒台の衝撃 追われた先にあるレイニングの未来/後藤俊輔
後藤俊輔【レイニング(牡3・国枝)】
サラブレッドにまたがっている感覚はファンや外部からはわからない。だからこそ、レースにおける人馬の一挙手一投足を熱心に観察するしかない。その中で勝負どころでの〝手応え〟は大きなヒント。「絶好の手応えなのに伸びない」「追い通しなのに伸びてくる」といったケースも散見されるが、ジョッキーの抱える手綱の感触と競走馬との動きを瞬時に察知しながら、ゴールまで数秒後の未来を描くのである。 昨年11月3日の東京芝1800メートル新馬戦を制したのはレイニングだった。上がり3ハロンは32秒9。同舞台で2歳時に上がり32秒台を叩き出して勝った馬は本馬を含めて過去に6頭しかいない。その中にはイクイノックス(東京スポーツ杯2歳S=32秒9)、クロノジェネシス(アイビーS=32秒5)が含まれている。もっとも、時計はナマモノ。馬場やペースによって大きく左右されるだけに、レイニングがGⅠ級であるかどうかはまだ断定できない。 しかし、過去の馬たちと比べて決定的に違う点が一つだけあった。それが〝手応え〟である。道中はいかにも2歳馬らしい、ふわふわした走り。1000メートル通過64秒2と極端なスローペースで脚がたまっていたとはいえ、持ったままで直線へ。「これは伸びてくる」と確信したが、期待は思わぬ方向で裏切られる。残り400メートルから鞍上・戸崎圭太がわずかに促してからが、まさに圧巻だった。その後は大きなアクションはまったくなく、最低限の扶助だけでゴールイン。ノーステッキで突き抜けたのだった。府中の直線を32秒台の末脚で駆けた他の5頭と比べても、その手応えだけは別格だったといえる。 勝負どころの手応えで数秒先の未来を推察するだけでなく、その馬の潜在能力を見極めて答え合わせをするのが実戦である。だが、終始馬なりだったレイニングの潜在能力は正直、何も分からないまま。デビュー戦を終えてなお、本当の姿は次走以降に持ち越されることとなった。母クルミナルは桜花賞2着、オークス3着と牝馬2冠で好走したディープインパクト産駒。その後、右前脚に屈腱炎を発症し、懸命なリハビリも及ばず、志半ばでターフを去っている。レイニング自身も今後は脚元との戦いになってくるかもしれない。ただ、このサートゥルナーリア産駒の走りの続きが見たい。次走は未定だが、今はただ、あの手応えの続きを見たい。本気で追われたらどこまで伸びるのか。可能性は無限大だ。
後藤 俊輔