パートナーの転勤で辞めなくていい 社員の選択肢を広げる制度を導入する企業も
転勤があると結婚しづらい、子どもを持ちづらいなど困難を感じるのは女性の割合が多い。そんな中、「居住地自由」を打ち出す企業も。AERA 2024年5月27日号より。 【図を見る】転勤経験で感じた「困難」なことはこちら * * * 夫の転勤や本人のキャリアアップに伴う転勤などの辞令と、結婚・出産の選択を迫られた際に女性ばかりがしわ寄せを受ける現状を変える必要があるが、そもそも希望しない転勤は、なくなってもいいんじゃないか。 そう思って、22年から国内であれば居住地を原則自由とする勤務制度を始めたNTTグループに聞いた。現場での工事や出社が必要な業務もあるが、実際にリモート勤務するのは、同グループの主要企業のひとつNTTコミュニケーションズでは社員の7割にのぼるという。 里帰り出産する社員が、産休前から地元に戻って里帰り先の産科を受診したり、親の介護のために実家近くに引っ越したり。年代を問わず、社内で好評な制度のようだ。 同社ヒューマンリソース部の川端敬子さんは、 「パートナーが国内の遠隔地に引っ越すことを理由に退職した社員の話を、めっきり聞かなくなりました」 と話す。 同社経営企画部の村岡真和(まな)さんは、結婚したばかりだった2年前、他社で働く夫が東京から福岡に転勤になった。過去に、夫の大阪転勤のタイミングで辞めた女性の先輩のことが頭をよぎったが、東京のオフィスでやりがいを持って働く村岡さんには、仕事を辞めるという選択肢はなかった。月に1回夫に会えるかどうかの別居婚を覚悟したという。 そんな時、遠隔地でリモート勤務ができる社内制度が始まった。先輩たちが「新婚のうちは一緒に住んだ方がいいよ」と背中を押してくれて、夫の転勤先の福岡に住みながら、東京の仕事を続けることにした。
■企業の制度見直しを 九州支社に異動希望を出すという選択肢もあったが、異動となれば仕事内容は変わってしまう。リモート勤務制度によって、 「自分が選択できる幅が増えて、より働きやすくなったなと思います。夫と普通に一緒に暮らせるありがたみというか、幸せも感じています」(村岡さん) そんな話を聞くと、やっぱり転勤はない方がいいと思うが、根本的な問題は転勤の有無ではなく、職場がそれぞれの思いや事情を理解していないことにある。 同じ職場で働き続けたいと願う人について、転職サービス「doda」副編集長の川嶋由美子さんは、 「その会社に勤めることが、自分のキャリア軸だと強く認識している人だと思います」 と指摘。この会社で仕事を成し遂げたいと決意している人であり、企業にとっても貴重な存在なのだ。そんな人たちが働き方やキャリアを主体的に選べるようになるために、企業側の制度の見直しや新構築が求められている。 「会社としては、社員が転勤する時期を選べるようにしたり、例えば3年くらいの猶予が持てる後ろ倒し制度を設けたりすることができるといいでしょう」(川嶋さん) また、転勤のある業務よりも給料は下がるが、転勤しなくてもいい地域限定職のようなキャリアの道筋を提示するのも重要だという。 家族の事情などで一度離れた職場に戻りやすい制度も必要だろう。出戻り社員の再採用を打ち出す企業も増え、人手不足の保育士は、業界への復職のための支援制度が広がっている。 ■自分で意思決定する とはいえ、転職が珍しくない時代だ。パーソルキャリアが公開した「はたらクイズ」によれば、「転職回数を気にしない」と回答した人の割合は58%で、女性で絞っても53.7%と半数を超えている。このことからも、2人に1人は転職に対するハードルが低いことがうかがえる。また、意にそわない転勤を迫られた時に、転職が選択されやすくなっているということも言えるだろう。
そんなキャリアの転換点に立つ人たちへ、川嶋さんはいつもこう伝えているという。 「私はキャリアアドバイザーなので、いろいろご相談いただきますが、キャリアや出産、ライフステージの計画が変わるときは突然です。想像とは違うキャリアプランを歩むことに心配もあるかもしれませんが、会社に縛られず、自分で意思決定できるといいのではないでしょうか」 (編集部・井上有紀子) ※AERA 2024年5月27日号より抜粋
井上有紀子