源氏物語ゆかりの琵琶湖畔 「放置竹林」から生まれし月を愛でる夜
タケノコの産地として知られる京都府向日市。管理されず荒れた竹林の一部が住宅街まで迫っている。 【写真】管理されず荒れた竹林に入る竹垣職人の真下彰宏さん=2024年9月18日午後、京都府向日市、筋野健太撮影 太さ10センチ以上、高さ約20メートルの竹が隙間なく茂り、昼間なのに薄暗い。地面には倒れた竹が幾重にも重なり、踏み入れた足はすぐに前へ進めなくなった。 「枯れた竹だけでなく、青い竹も傷があって、竹垣に使えるものはほとんどない。竹林の再生には5年ぐらいかかる」 桂離宮や平安神宮など伝統建築の竹垣を制作する職人の真下彰宏さん(47)が竹林に分け入りながら話した。 林野庁によると、管理されずに荒れた「放置竹林」は、竹の需要低下や管理者の高齢化などで全国で急増しているという。同市産業振興課によると、市の竹林の3割ほどで管理が行き届いていないという。 ■プラの代替品、SDGsで再注目 タケノコ栽培のために植えられる「孟宗竹(もうそうちく)」や竹細工に使われる「真竹」は成長が早く繁殖力が強い。地下50センチほどの浅い場所で横へ広がるように根を張るため、大雨で竹林ごと地面が滑り落ちる危険性がある。また、竹林にすみついた野生のシカやイノシシが畑の農作物を荒らすこともあり、深刻な問題となっている。 一方で竹は古来日本人にとって身近な植物で「古事記」や「竹取物語」にも描かれてきた。建築物や日用品、茶道や華道などで使われてきた竹がプラスチックに代わり需要は減少したが、SDGs達成につながる「脱プラスチック」の素材として再び注目を浴びている。 琵琶湖の湖畔、大津市のなぎさ公園に直径約3メートルの巨大な竹まりが展示されている。夜になると、中に設置されたライトがともり、編み上げた竹を覆う布越しにやさしい光が周囲を照らす。 紫式部が同市の石山寺から琵琶湖に映る満月を見て「源氏物語」の着想を得たと伝わることにちなんだイベントの一環で、12月1日まで展示される。真下さんや空間デザイナーらが手がけた竹まりには、フィルムや布を貼り満ち欠けする月を表現した。 真下さんは「竹が身近なものでなくなったため、放置竹林が生まれた。このような展示や竹製品を作るイベントなどをきっかけに、放置竹林を減らしていきたい」と意気込む。(筋野健太)
朝日新聞社