「SHOGUN 将軍」に出演、ハワイ在住俳優・平岳大「日本人俳優よ、いまこそ海外に出よ」
プロデューサー真田広之の存在は大きかった
話を「SHOGUN 将軍」に戻そう。実はこの作品をリメイクするにあたり、企画の段階で何度か潰れかけたそうだ。「最初の頃の企画は、いわゆる日本のトンデモ描写が多かったと聞いています。それをここまでの作品に仕上げたのは、ひとえに真田広之さんのプロデューサーとしての力量。これに尽きます」と平は語る。 例えば、不自然な日本語のセリフがあったとしても、俳優は相手役のセリフにまで口を出せないが、プロデューサーなら全編にわたって目を光らせることができる。真田は不自然なセリフを1つ1つ指摘して修正を交渉していったそうだ。 「元は英語の台本を日本語に訳し、その際に日本人の専門家が言い回しの時代考証をするのですが、それでも不自然な言い回しが出てきます。日本人の感覚でそれを修正できる真田さんというプロデューサーがいたのは、大きかった」 筆者が作品を観た印象でも、夜の室内はきちんと暗く、昼間でも屋敷の奥は暗い。足袋と草履で戦う様や、平が演じた石堂が官僚仕事で押す判子や朱肉といった小物にまで、専門家による時代考証が徹底していると感じた。 「ハリウッド製作の作品で、現場で何かを修正するのは、本当に大変なこと。セリフ1つ変えるのにも監督だけでなくプロデューサーや脚本家、時代考証の専門家など多くの人が関わります。予算も大きいと、それだけ関わる人も多いのです。 真田さんが、大げさな表現を嫌い徹底的に時代考証に即したからこそ、この作品が生まれたと言っていい。派手なシーンがあるわけではなく、極端な見せ場があるわけでもない。それでも何かを印象づける演技が役者に求められた。チャンバラはなかったけど、演技は常に”真剣勝負”でしたよ」 そんななかで、次第にスタッフの間でも日本という異文化をリスペクトする空気が生まれていったという。平が語る。 「撮影半ばを過ぎたあたり、プロデューサーのジャスティン・マークスが、自身が編集したトレーラー(予告編)を関係者に観せる席で、10分くらい日本語でスピーチしたのです。これはハリウッドのクリエーターとしてはあり得ないこと。日本とハリウッドが文化的に互いに対等になれたのかなと思えた瞬間でした」 エミー賞授賞式のパーティーでは、女優のナオミ・ワッツ(夫のビリー・クラダップは同賞の助演男優賞を受賞)が、平のもとに寄ってきて「あなたの演技がとても良かった」と言葉をかけたという。平はそのときの喜びを次のように語る。 「え? 本当に僕のこと? と疑ってしまったくらい。それくらい僕が演じた石堂には、目立つアクションシーンもないし、チャンバラも腹切りもない。ある意味で地味かもしれない演技が、彼女には響いていたのです。それは役者としてすごく嬉しいことだったし、これでいいのだと吹っ切れた瞬間でした」