井上尚弥の衝撃の112秒TKO3階級制覇の裏にあったテレビに映らないドラマ
「素直に3階級制覇の重みを感じる。世界をとったときと2階級制覇のときは流れがはやすぎた。組まれた試合をただこなしているだけで、そのとき、そのときの思いがなかった。でも、今は、しっかりと試合の位置づけもできている」 25歳の3階級王者、“黄金のバンタム”のベルトを巻いた思いをこう続けた。 「夢みたいですね。(バンタムの日本の過去王者は)レジェンド、偉大な方ばかりです。まずスタートラインに立てた。これは誇りに思いたい」 彼らを超えるレジェンドになりたい。 リング上では参加が内定しているWBSSへの出場をファンに報告した。 すでに無敗のWBA世界同級スーパー王者のライアン・バーネット(26、英国)、11秒KOで話題となり、4月の防衛戦では井上が衝撃KOで葬ったオマール・ナルバエス(42、アルゼンチン)に完封勝利したWBO世界同級王者のゾラニ・テテ(30、南ア)、IBF世界同級王座を獲得したばかりのエマヌエル・ロドリゲス(25、プエルトリコ)の3王者が参加を表明。残り1枠のシード枠に井上が加わることになる。 準決勝のファイトマネーが80万ドル(約8800万円)、決勝のそれは100万ドル(1億1000万円)を超えるという夢のあるトーナメントだ。 「ロドリゲスは、まだそんなに見たことがない。バーネットもザナト・ザキヤノフ戦くらいを見ただけ。やってみたいのはテテかな。11秒KO試合は、まぐれだったけど(笑)。まあどの選手と対戦しても一緒。相手がどうこうより自分を仕上げていく」 勝てば自らがWBSSへ参戦する予定だったマクドネルも「井上ならWBSSでも勝てる可能性がある」とエールを送る。6月には大会のプロモーターが来日、大橋会長と協議を持つという。 今、井上の目の前に、夢にまで見た最強のライバルたちとの戦いの道が開けたが、実は、112秒の衝撃TKO決着にも不満があった。 「(減量からの解放に)エネルギーがみちあふれているのを感じたけれど、まだ硬い。きょうの試合では自信がつかない。まだ見えていない実力を引き出せる試合になるのかなと思っていたんだけど、何もわからないままバンタムの最初の試合が終わった。本当なら中盤まで試合をしてバンタムの体力とか耐久性を確認したかった。そこからのトーナメントなら自信を持っていけるが、ここからいくのは未知数」 真吾トレーナーも「もう3、4ラウンドやりたかった、そこで対処できれば自信になったのに」と同じ思いを吐露した。強すぎるゆえの悩みーーーである。 この試合は、「スカイスポーツ」と「ESPN+」にて全英を含む欧州と全米に生中継されていた。 ESPN電子版は、さっそく速報版でこう伝えた。 「井上は怪物の名に恥じない試合でマクドネルを破壊した。マクドネルは試合前12週間の準備をしてきたと語っていたが、それはまったく意味をなさなかった」―― (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)