『IT/イット』『ミーガン』『変な家』『サユリ』…“ホラー×異ジャンル”こそが、エンタメの法則!
お盆を過ぎ、一時の酷暑が落ち着いてきた今日このごろ。まだまだ暑いもののようやく夏らしさを楽しめる気候となったわけだが、この時期の風物詩といえば、やはりゾッとすることで涼を感じられるホラーだろう。怪談やお化け屋敷もいいけれど、屋内で楽しむホラー映画もオツなものだ。 【写真を見る】閲覧注意…家族を皆殺しにされ、あまりにも無残な状態の家に絶句 近年、ホラー映画のトレンドの一つとなっているのが、ただ単に“怖いだけ”ではない、“ホラー×異ジャンル”を融合させたエンタメ性の強い作品たちだ。そこで本稿ではPRESS HORRORが、異ジャンルとの融合を成功させた4作品を厳選。それぞれの注目ポイントを紹介していこう。 ■“ホラー×青春”といえば、スティーヴン・キング原作の大ヒット作『IT/イット』 まずはホラー映画と融合すると抜群の相性の良さを放つ“青春ドラマ”。一般的に“ジュブナイルホラー”とも称されるこの融合ジャンルは、その名の通り少年少女たちを主人公にしており、夏休み真っ盛りのいまの時期に打ってつけだ。 1990年代に日本で大流行した「学校の怪談」シリーズのようなファンタジー色の強い作品もあれば、近年では世界的なムーブメントを巻き起こしたNetflixシリーズ「ストレンジャー・シングス 未知の世界」のような群像劇まで。怖い、けれどどこか懐かしく、誰もが自らの青春時代を思い出さずにいられないのが“ジュブナイルホラー”の醍醐味だ。 そんなジュブナイルホラーのなかでも最大のヒット作となったのが、スティーヴン・キングの原作小説を映画化した『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』(17)。物語の舞台は1980年代後半、児童失踪事件が相次ぐ田舎町。弟がいなくなってしまった少年ビル(ジェイデン・リーバハー)は、ピエロの姿をした、得体の知れない“それ”に遭遇。同じように“それ”の恐怖を味わったルーザーズ・クラブの仲間たちと共に、自らの恐怖心に抗いながら“それ”に挑んでいく。 不気味なピエロの姿をした“それ”=ペニーワイズ(ビル・スカルガルド)の禍々しい見た目と、容赦ないホラー描写。紛うことなく“怖い”ホラー映画でありながらも、ビルとルーザーズ・クラブの仲間たちとの友情や、ベバリー(ソフィア・リリス)への淡い恋心など、ジュブナイルホラーには欠かせない要素が満載。再会を誓いあうラストはまさに王道で、美しい余韻を残す。彼らが大人になって再び集合する続編の『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』(19)も胸アツだ。 ■“ホラー×バトル”=最恐エンタメ!『M3GAN/ミーガン』 幽霊やゾンビ、モンスター、さらには生きた人間など、ホラー映画にはありとあらゆるバリエーションの恐怖の対象が出現するが、登場人物たちが勇気を振り絞って恐怖に立ち向かう姿にこそ、胸を打つドラマが生まれる。 ホラー映画にバトル要素が絡み合う作品は多々あるが、ブラムハウス・プロダクションズがAI人形の恐怖を描いた『M3GAN/ミーガン』(23)は、近年のバトルホラー映画のなかでも特筆すべきスリルと爽快感を持ち合わせた一本。孤独な少女の“友だち”としてプログラムされた開発途上のAI人形が暴走。次々と惨劇を繰り広げていく。 人形ホラーといえば、チャッキーでおなじみの「チャイルド・プレイ」シリーズなどもあるが、“ミーガン人形”の殺傷能力は段違い。小さなボディに似合わず、まるで「ターミネーター」のような圧倒的なパワーで繰り返し襲ってくる!この執念深い悪役ぶりが、高いエンタメ性を生んでいるポイント。美少女然とした見た目と、たまに見せる奇妙な動きに油断してしまうと一貫の終わり。古今東西、綺麗な花には棘があるものだ。 ■“ホラー×どんでん返し”は、二転三転がトレンド『変な家』 予想を裏切る展開や、思いもよらないラストが待ち受ける“どんでん返し”はホラー映画の得意技。観客を驚かせようとするホラージャンルと、意外な結末との相性は非常に高い。とはいえ最近は、どんでん返しを用意している映画があまりに多すぎて、逆に“意外性”が失われてしまっているというのも事実。 そんななかで今年の春休みに公開されてサプライズヒットを記録した『変な家』は、どんでん返しがあるとわかって観ている観客の予想を逆手に取り、次から次へと斜めうえの方向へといざなう怪展開で観客を圧倒。不可解な間取りに端を発した正統派のミステリーかと思えば、オカルト寄りになったり、冒険映画的になったりと二転三転する。この一筋縄ではいかない展開が口コミで広がり、ヒットにつながったと言えるだろう。 ■青春、バトル、どんでん返し…まさかの全部乗せ『サユリ』 ここまで紹介した“青春”、“バトル”、“どんでん返し”の要素が一本の映画のなかに詰め込まれた、全部乗せ状態のホラーがいま話題となっている。「ミスミソウ」や「ハイスコアガール」などで知られる押切蓮介の同名漫画を白石晃士監督のメガホンで実写映画化した『サユリ』(公開中)がそれだ。 神木家の7人家族は、郊外にある中古の一軒家に引っ越してくる。新生活にワクワクしていた中学3年生の長男・則雄(南出凌嘉)は、学校で隣のクラスの住田(近藤華)から突然「気を付けて」と言われ困惑する。すると、神木家に次々と理不尽なできごとが起こり、連鎖するように家族が怪死を遂げていく。 追い詰められパニック状態に陥った則雄の前に現れたのは、この家に棲みつく少女の霊“サユリ”。この霊がすべての恐怖の根源だったのだ。そんな時に則雄を救ったのは認知症だったはずの春枝ばあちゃん(根岸季衣)。意気消沈していた則雄に発破をかけるように、春枝は得意の太極拳を伝授。家族を奪った“サユリ”を地獄送りにするべく、則雄と春枝の壮絶な復讐が幕をあける…! 一度も話したことがなかった則雄と住田が、ぎこちないやり取りを交わしながら距離を縮めていく青春模様は、映画全体を通してホラー描写と絶妙なバランスを保つ。2人の関係の変化が終盤の展開を大きく左右させていく点も、ジュブナイルホラーらしい愛くるしさだ。 そして則雄と春枝の、孫と祖母という関係を超えた師弟関係は、旧くは『ベスト・キッド』(84)、近年なら『クリード チャンプを継ぐ男』(15)を彷彿とさせるような痛快さで、熱いバトルが否応なくエンタメ感を盛り上げていく。 また、“どんでん返し”の巧みさも見逃せないポイント。容赦ないホラー描写で畳み掛ける前半に圧倒されていると、後半ではガラリと様相が一変する。この衝撃的なテイストの変わりようは目の肥えたホラー映画ファンも、ふだんはあまりホラー映画を観ないという人も、度肝を抜かれること間違いないので劇場で体感してほしい。 ■“ホラー×異ジャンル”で、夏の夜を涼しく楽しむ! ここで挙げた4作は、いずれもエンタメ性が高いうえに怖さもしっかりとあり、“怖いもの見たさ”に応えてくれること間違いなしだ。この記事を参考にホラー映画をチョイスして、夏の夜を涼しく過ごしてみては? 文/久保田 和馬