[MOM4935]帝京MF砂押大翔(3年)_優勝旗を抱えながらこみあげてきた涙。「帝京のキャプテン」にのしかかるプレッシャーの先でこじ開けた全国の扉
[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ] [11.16 選手権東京都予選Aブロック決勝 帝京高 2-1 國學院久我山高 駒沢陸上競技場] 【写真】ジダンとフィーゴに“削られる”日本人に再脚光「すげえ構図」「2人がかりで止めようとしてる」 ようやくピッチに響いたタイムアップの笛を聞くと、涙が次から次へとあふれてくる。名門校のキャプテンを務めてきたプレッシャー。自身のミスで失点したところから逆転勝利を収めた安堵。悲願になりつつあった全国出場をようやく達成した喜び。さまざまな感情が一気に心の中に押し寄せる。 「今日に懸ける想いというのは自分もチームメイトも強いものがありましたし、この1年間、この3年間、自分たちがずっとやってきたことが1つの形として現れてくれたことへの嬉しさが一番大きかったです。ちょっと涙が出てきてしまいました」。 15年ぶりの全国出場を手繰り寄せた帝京高を力強く束ねる不動のキャプテン。MF砂押大翔(3年=鹿島アントラーズノルテジュニアユース出身)が備える圧倒的なリーダーシップが、ファイナルでもチームをしなやかに勝利へと導いた。 「なかなか自分たちのスタイルを打ち出せなかったですね」。砂押は前半の立ち上がりをそう振り返る。高校選手権東京都予選Aブロック決勝。攻撃力に定評のある國學院久我山高との一戦は、やや帝京が相手の勢いに押される流れの中でスタートする。 前半18分。先制点は國學院久我山に記録される。右サイドの深い位置へ侵入され、喫した失点。きっかけは砂押の縦パスが相手に奪われたシーンだった。みんなで集まった円陣。気落ちしかけていたキャプテンに、チームメイトは笑顔でポジティブな声を掛けていく。 「自分のミスで失点してしまったというところで焦っている中で、田所(莉旺)が『笑おうよ』と言ってくれましたし、チームメイトが『大丈夫だよ』とかいろいろな声を掛けてくれて、そういう言葉が励みになりました」(砂押) みんなの気持ちを受け取った砂押は、前を向く。丁寧にパスを捌き、セカンドボールをいち早く回収し、シビアなゾーンに入ってきた相手には厳しく寄せる。「失点してからは『本当にこれは取り返さないといけないな』という、もっと強い想いを自分の中でも抱きました」。戦う気持ちに一層スイッチが入る。 34分にFW森田晃(3年)のゴールで同点に追い付くと、チームも改めて落ち着きを取り戻す。迎えたハーフタイム。ロッカールームの雰囲気にも砂押は手ごたえを感じていた。「得点して良い形ではあったんですけど、誰一人油断している気持ちは見えなかったですし、『このままじゃダメだぞ』という強い意志も感じられて、自分もチームメイトもより後半に強い想いで入れたと思います」。 ここまで必死にグループをまとめようと試行錯誤してきた中で、少しずつ、少しずつ、チームに対してはっきりとした自信を纏ってきたという。「去年や一昨年までの自分はなかなかチームに対して良さを出し切れなかったんですけど、今年は自分がキャプテンという立場になって、練習でも一番声を出すことを意識するとか、そういう小さなところから変えていこうかなという想いがあって、そういうところをみんなにも徐々に影響させて、今はどんどんチームが良くなってきているのかなと思います」。 いろいろなプレッシャーが掛かってくる決勝でも、チームの雰囲気が勝利という目的に向かって研ぎ澄まされていく感覚を、キャプテンは掴んでいた。「自分たちの良さが出せているのは、全員が楽しんで声を掛け合えている時だと思っているので、その良い時に近付けるために、まずは声でチームに影響を与えることを意識して、全員で試合に臨めたことが良かったと思います」。ピッチの中にはポジティブな声が飛び交っていく。 最終盤の後半39分。土壇場も土壇場で帝京はPKを獲得する。キッカーは中学時代から同じチームで、6年間の時間をともに過ごしてきたFW土屋裕豊(3年)。左を狙ったキックがゴールネットへ飛び込むのを見届け、砂押はみんなと一緒に応援団が叫ぶスタンドの方向へと走り出す。 もうミスは絶対にしない。最大限の集中力で相手の攻撃を1つずつ跳ね返し続けると、タイムアップのホイッスルが耳に届く。「大翔を見たらメッチャ泣いていたので、本当に勝てて良かったです」と笑ったのは失点時に励ましの声を掛けたDF田所莉旺(3年)。帝京は15年ぶりとなる全国切符を逞しく勝ち獲った。 砂押は鹿島アントラーズノルテジュニアユースの出身。ユースへの昇格も可能性はあったが、「日比さん(日比威前監督/現・順天堂大監督)から声を掛けていただいて、練習参加した際に『ここなら自分の良さを生かせるし、自分が楽しく夢に向かって走れるな』という想いが湧いてきたので、即決で決めました」と帝京の門を叩いた。 今季からチームを率いる藤倉寛監督にも小さくない信頼を寄せている。「練習中も試合中も自分たち主体でやらせてくれる監督ですね。4月ぐらいは自分たちにまだ気づけていない部分があったんですけど、夏を過ぎてから藤倉先生の気持ちもだんだん自分たちに伝わってきて、練習中も自分たちで声を出して士気を高められている部分もありますし、試合でも外から言われて修正するのではなく、中で修正するのが一番だとは言われてきているので、凄くやりやすいです」。その中で任されている部分を意気に感じ、キャプテンとしてやるべきことと懸命に向き合ってきた。 印象的だったのは表彰式の一コマ。チームメイトのヒーローインタビューを笑顔で聞いていたものの、優勝旗を受け取ってからしばらくすると、再び涙がこみあげてくる。その一連に『帝京のキャプテン』を背負い続ける意味が、少しだけ垣間見えた気がした。 3年目でたどり着いた冬の全国大会。チームとしては15年ぶりの晴れ舞台となるが、もう目指すべき場所はとっくに決まっている。「全国優勝しか考えていないですね。入学してからその目標だけを掲げて生活してきているので、これからもまたイチから全員で切磋琢磨していきたいと思います」。 かつては阿部敏之が、中田浩二が、三浦颯太が背負った黄色いユニフォームの8番を託されている、帝京の司令塔。砂押大翔はチームメイトのために、そして自分自身のために、カナリア軍団を連れていけるところまで、全力で連れていく覚悟を定めている。 (取材・文 土屋雅史)
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