データでオフィスの進化目指すイトーキ 攻めつつ守るDXの進め方
「20年もののCOBOL」からクラウドERPへ
MONOist 中期経営計画では、2026年度までにOffice3.0事業の単年度売上高を30億円にするという目標を掲げています。進捗はどうでしょうか。 八木氏 具体的な数字は明かせないが、本年度の売り上げ目標は上回っており、予想を超えるペースで推移している。 工場であればビーコンなどのIoT機器で施設内の情報を取得する試みは一般化しているだろう。ただ、オフィスではそうした試みは広まっていなかった。こうしたソリューションを提供する企業も国内外にあるが、コスト面での課題などからあまり普及していなかった。 一方で、当社の取り組みが好評であるということは、この分野に高い期待が寄せられていることの表れだ。1つの図面の上で、オフィスワーカーごとのエンゲージメントサーベイの結果や営業成績などのパフォーマンスを可視化したいという潜在ニーズを掘り起こしたのではないか。 Office3.0の事業的な意義としては、データを通じて顧客とのつながりを継続的に保てることが挙げられる。今まではモノを売ると、そこで顧客との関係は切れてしまっていた。データがあれば改善効果が客観的に分かりやすくなるので、私たちもコンサルティングサービスを提供しやすくなる。顧客との関係を切らずに済む。 MONOist 中期経営計画では生産/業務効率向上のために、社内ITインフラの刷新を推進すると記載されています。 竹内尚志氏(竹内氏) 守りのDXの取り組みで重点を置いているものの1つがERPの刷新だ。 現在、当社は約20年前にCOBOLで開発した基幹システムを運用している。仕事の変化に合わせて少しずつ改修しているため、現状の業務に支障は出ていない。だが、データビジネスを加速させる攻めのDXに合わせて、部門横断でのデータ共有やリアルタイムでの業務データ取得の重要性が高まっている。サイロ化してしまい、横串連携が難しい既存システムでは対応しきれない。当社の代表取締役社長(湊宏司氏)も「毎日(業績指標の)データを見て、毎日判断したい」と言っているが、現状では取れるデータとそうでないものがある。 こうしたこともあり、オラクルの「Oracle Cloud ERP」の刷新を決めた。導入に当たっては「標準化/簡素化/自動化」の3点を意識した。業務の属人化を防ぐため、なるべくパッケージ機能に業務を合わせて、追加の機能開発は少なく抑えた。 MONOist ただ、製造業であれば機能追加はある程度避けられないと思います。この辺りはどのように判断したのでしょうか。 竹内氏 非常に重要なポイントだ。前提として、当社くらいの規模になると全業務を標準機能に合わせるのは無理だ。製品は椅子などオフィス家具、建材などさまざまで、事業もモノづくりだけでなく内装工事など多岐にわたっている。 無理にシステムに合わせると利益を損ないかねない領域もある。営業部門が使う見積もりのシステムや、内装工事などでの工事費用を算出する積算のシステムなどがそれに当たる。いずれも経営に直結するキーとなる領域だ。これらはERPのパッケージに合わせず、見積もりのシステムは、IaaS(Infrastructure as a Service)上にPaaS(Platform as a Service)で独自システムを構築して対応した。この他にも、キー領域についてはステークホルダー間で確認した上で、アドオンで開発するかを決めている。 ただ現場は、年1回しか使わないような機能でも、「絶対に必要だから追加開発してほしい」と要望することもある。必要か判断に迷う機能は、「作らない」と決めている。まずは標準機能で業務を行い、不便であれば後で機能を追加開発する。 画面のレイアウトなども細かくカスタマイズすると工数が掛かるので、標準のレイアウトに慣れてもらう形でいったん進めさせてもらっている。ERPのクラウド移行は3回に分けて実施する予定で、現在は受発注システムの移行が佳境を迎えている。取り組みを通じて、業務の標準化が進んできたと感じている。 MONOist 基幹システム以外のITシステム整備はどうでしょうか。 竹内氏 ERP以外の“大物”としては、生産管理系のシステムがある。 最近ではオフィス家具はカタログからの発注だけでなく、天板や素材、サイズを変えたカスタムオーダーを受けるケースが増えている。今後も増加すると見越して、生産ラインの管理システムなどを含めた、全体的なシステム構想に取り組んでいる。 現在はBOM(部品表)、CADなどのシステムが個別最適化された状態になっているが、これらの全体最適化を目指したい。生産や物流の最適化のために、工場全体の再編も視野に入れている。