『潜入兄妹』を『占拠』シリーズと絡めて考察 兄妹のどちらかが鳳凰の可能性も?
竜星涼と八木莉可子がW主演を務める『潜入兄妹 特殊詐欺特命捜査官』(日本テレビ系)が遂に開幕。本作は、『大病院占拠』(日本テレビ系)、『新空港占拠』(日本テレビ系)のチームが結集したオリジナル作品で、父の命を奪われた兄妹を主人公に、日本最大級の詐欺集団“幻獣”に立ち向かう物語。早くも絶体絶命の展開と『占拠』シリーズのシェアードユニバース的な世界観を匂わせた初回の放送から、今作の見どころについて考察してみたい。 【写真】場面カット(複数あり) ■早くも絶体絶命の大ピンチに陥った第1話 第1話の内容は、5年前、警察官の兄・渡良瀬貴一(竜星涼)と父・貴司(半田周平)が、高校生ながらホワイトハッカー大会で準優勝した妹・優貴(八木莉可子)を祝う予定だったが、貴司が手の甲に鳳凰のタトゥーを入れた正体不明の人物に兄妹の目の前で殺害され、それ以来、優貴は笑顔を見せることがなくなった。それから5年、貴一は警察を辞め、犯人が巨大詐欺グループ「幻獣」のリーダーではないかと、ホワイトハッカーの妹と独自で正体を探っていた。しかし、同じく幻獣の詐欺事件を追う警察に身柄を確保され、貴司の同期の刑事・入間(及川光博)から貴司が幻獣の潜入捜査官で情報を捜査二課に送っていたことが明かされる。 妹のハッキングなどの罪を帳消しにすることを条件に潜入捜査官になることを渋々引き受けた貴一。鳳凰に会うには4人の幹部に気に入られることだが、潜入が見つかったら父親のように即ジ・エンド。まず、特殊詐欺グループの「幻獣」の説明会に行くと、貴一と警察の会話を盗聴していた優貴も説明会に勝手に参加した。2人はテストに合格し、円山兄妹として幻獣に潜り込むことに成功したが、幹部の1人・玄武(吹越満)は2人が警察に接触していたことを嗅ぎつけ、早くも絶体絶命の大ピンチに。 ■『占拠』シリーズとは逆転の発想の作品に? 初回を観る限り、隠されていた幹部のキャストが物語に沿って明かされていく流れや、CMの入り、次回予告、ホームページの隠し動画など、『占拠』シリーズのフォーマットをそのまま引き継ぎ、また『大病院占拠』『新空港占拠』両作に登場した情報分析官の志摩(ぐんぴぃ)が登場したのも同じ世界観の作品だということを分かりやすく表している。ただ『占拠』シリーズを引き継ぐ作品として面白いのはそこではなく、注目すべきポイントは『占拠』シリーズとは逆転の発想の作品であることだ。 『占拠』シリーズの面白さの1つとして、警察側の内部の裏切り者がいったい一体誰なのか? という考察が最重要課題となっていたが、今作は犯罪組織に潜入している兄妹の物語なので、いわば主人公が最初から組織の裏切り者という設定で、それをいかに見つからないようサバイブしていくのかという物語構造になる。 また『占拠』シリーズで特徴的だったのが、病院や空港を占拠する悪のグループには、県や警察によって隠蔽されたウイルスに関する情報を暴くためだったり、空港建設の犠牲となった家族たちだったりと、警察や病院の隠蔽を明らかにする動機があった。組織を結成していく過程や前日談などが物語の中盤から詳しく描かれ、物語の途中から善悪が逆転していく流れが生まれ、アンチヒーローものとなっていく面白さもあった。それが今作では、初回で犯罪組織に加入し、チームが結成されていく過程を描くという、初めから犯罪グループ側が舞台となっている。 ■兄妹のどちらかが鳳凰の可能性もあり得る? 『占拠』シリーズの視点で言えば渡良瀬兄妹は、『新空港占拠』で武装集団「獣」のリーダーである駿河姉妹(高橋メアリージュン/宮本茉由)のように、徐々に犯人の素性が明かされていく犯人の立場であり、今作はそこを主人公に据えた物語とも言える。そう考えると、『新空港占拠』では、獣の犯罪グループは、一枚岩ではなく、途中から分裂したり、ジェシーが演じた新見大河は最初から裏切り者としてスタンドプレーで真実を暴こうとしていたりしたが、それに近いものになってくるのかもしれない。 また、『大病院占拠』で、病院を占拠する“鬼”のリーダー・青鬼こと大和耕一(菊池風磨)も、物語の冒頭で里親がガソリンスタンド立て籠り事件を起こして、主人公の刑事・武蔵三郎(櫻井翔)の発砲に起因する引火爆発事故で亡くなり、その真実を暴くことと復讐が悪の道に走った動機の1つで、『新空港占拠』でも父親の敵討ちが動機だった。そういった部分でも広い意味では前シリーズをトレースしているのも興味深い。あくまでも極論だが、もし鳳凰の存在が誰も顔を知らないとするならば、『新空港占拠』のラスボスがあの人物であったように、兄妹のどちらかが鳳凰の可能性だって十分考えられる。とは言え、今作は詐欺グループという正義の志を持った集団ではないので(個々では分からないが)、そこが致命的に違うことは忘れてはいけない。 ■詐欺グループの中にも幹部を恨む人物がいる可能性 また物語を面白くする要因として、『占拠』シリーズでは不死身の武蔵刑事には妻と娘がいることで、主人公が自由に動けないというハンデ(時には事件解決の助け)があったが、今回は妹がそれに当たり、初回を観る限り頑固でスタンドプレーが多い妹と見受けられた。ホワイトハッカーという特殊能力や、咄嗟の機転がきく頭の良さがあり、兄よりも仕事ができるキャラではありそうだが、足枷となる展開も完全にあるだろう。こうした愛する家族のために戦う主人公という設定も引き継がれている。 今後の展開はまだ読めないが、兄妹がいかに幹部に気に入られるよう様々な特殊詐欺で金を稼ぎサバイブしていくかはもちろんのこと、詐欺する相手も訳ありで、必要悪的なダークヒーロー的展開になるかもしれないし、それらが実はリーダーを炙り出す為の外堀を埋めていたという結果になりそうな予感もする。また詐欺グループの中に兄妹と同じように幹部たちを恨む人物がいるはずで、そことどう結託していくのか。さらに、早くも入間の目線や表情も怪しく、今作でも警察側に裏切り者がいる展開も当然想定されるし、ホワイトハッカーの妹が誰も見ていないラスボスとして犯罪組織をコントロールしていても不思議ではなく、前述したように既に兄妹の行動に視聴者が騙されているのかもしれない。 まだ初回を終えたばかりなので、今回考察したものと全く違う展開になるかもしれないが、少なくとも『占拠』シリーズは真正面から黒幕を暴いていく物語だったのを、今回は犯行グループ側に潜入して黒幕にたどり着くという発想に転換してみせたのが実に面白い。『占拠』シリーズと同じ世界線だとしたら、『新空港占拠』のラストで脱獄した大和がどこかで関わってくるのか? そこも頭の片隅に入れておきつつ、今後登場するキャストや細かい描写に気を抜かず注目していきたい。
本 手