57歳で大手企業からディズニーランドのキャストに転身。園内を清掃しながら目の当たりにした夢の国の“本当の姿” 「基本時給アップは8年間でわずか70円」
キャスト専用ショップは9割引きになることも
──ディズニーランドにはカラスがいないという都市伝説があるんですが、本当ですか? 残念ながらそういったことはないですね(笑)。カラスは普通にたくさん生息しています。園内にスズメ、ムクドリ、ハトなどの亡骸がたまにあります。ネズミのもありましたね。ネズミだからといって手厚く葬られることはありませんけど(笑)。 ──キャストならではの福利厚生ってあるんですか? キャスト専用のショップがあって、売れ残ったグッズやお菓子などを安く販売しています。賞味期限ギリギリのお菓子は9割引きなんてこともありました。開店の1時間半前から長蛇の列ができるほどの人気で、ここぞとばかりに大人買いする人もいました。わたしも孫が4人いるので、プレゼント用に買って、じいじの点数を稼いでましたね(笑)。 あと、キャストトレーニングのために、当時はパスポートが年に8枚もらえました。それを家族にプレゼントしたこともあります。会社としては、ゲスト目線でパークを体験して業務に活かしてほしいという狙いがあるんですが、そこは申し訳ないと思いつつ、家族が大喜びするので。
働いてみて直面した決して喜べない職場環境!
──そもそも、ディズニーランドで働いた日々を書こうと思ったのはなぜですか? 2010年6月から2018年3月末、65歳まで8年間勤めたんですが、その中で非正規雇用の問題を目の当たりにして、待遇改善に少しでも繋がればと思ったのがきっかけのひとつでした。 オリエンタルランドで働くキャストのおよそ8割弱(2024年3月時点)が準社員・出演者なんです。「社員」と名が付いていますが、実態は非正規雇用のアルバイトやパートです。正社員は給料制ですが、準社員は時給制。 わたしも基本時給1070円(退職時)で働いていました。時給が上がったときもありましたが、そのときアップしたのはたった10円。退職までの8年間で合計70円のアップでした。 ただ、ディズニーシーに「ファンタジースプリングス」という新しいエリアがオープンしたりと人材を確保する必要性も高まって、今年の4月から準社員の基本時給を一律70円引き上げたようです。 もちろん本人がよければそれでいいんですが、他のバイトを掛け持ちしていた人もいたし、結婚して子どもがいる人もいた。そうした同僚と接していると、現状を周知するために、余計なおせっかいかな……と思いつつも執筆を始めました。「俺が言わないで誰が言う」とやむにやまれぬ気持ちでしたね。 ──本に関して、周りの反応はどうでしたか? 当時のキャスト仲間や友人・知人から感想をもらいましたが、おおむね好評です。しかし、キャストの中にはおそらくおもしろく思わない人もいると思います。 わたしが幹事となり、年に2回ほど近しい仲で飲み会を開いていたんですが、そのメンバーの一部の人たちへなぜ本を書いたのか自分の思うところをしたためてメールを送ったんですが、ほとんど返信がありませんでした。直接なにか言われたわけじゃないんですが、それ以来誘いづらくなってしまって……。 キャストのためを思って執筆した気持ちもあったので、なんかさみしいですね。 ──生まれ変わってもディズニーで働きますか? ディズニーランドで働いた期間は楽しかったですが、2回目はどうですかね。もし生まれ変わったら、語学を身につけて海外の人と自由に会話できるようになりたいですね。 ちなみに今からでも遅くないとキャスト時代にフランス語をマスターしようと勉強したのですが、途中で挫折してしまいました。私にはフランス語は難しかったです(笑)。 取材・文/集英社オンライン編集部
集英社オンライン