57歳で大手企業からディズニーランドのキャストに転身。園内を清掃しながら目の当たりにした夢の国の“本当の姿” 「基本時給アップは8年間でわずか70円」
内にも外にもいる困ったさん
──デビューした日のことは覚えていますか? 初日はドキドキでしたね。「歩くコンシェルジュ」として、ゲストを案内するのもわたしたちの仕事のひとつなんですが、なにを聞かれるかわからないんです。だから「聞いてくれるな」というオーラをビンビン出していたと思います(笑)。 ゲストから初めてかけられた言葉は「トイレどこですか?」でした。これが1番多い質問です。 ──他にはどんなことを聞かれるんですか? 修学旅行の時期は学生さんから「なにを集めているんですか?」という質問を多くされますね。「夢のカケラを集めてます」という答えをみんな期待しています。でも最初はそれがわからなくて「ゴミを集めています」って答えて、ゲストをガッカリさせていました。慣れてきたら「幸せのカケラを集めてます」とか、自分なりに工夫して答えていました。 あるとき、女子高生に突然「愛ってなんですか?」って聞かれ、咄嗟に映画『ある愛の詩』の有名なセリフ「愛とは決して後悔しないこと」って答えたら、「深い!」と言われたことがあります(笑)。 ──困ったゲスト、変わったゲストはいましたか? ゴミ箱がすぐ側にあるのにゴミをその場に放置したり、スモークターキーレッグの骨を植え込みに捨てたり、個室トイレのドアを開けっぱなしにして便座を上げないまま小用をしたりと一部ですが、マナーが悪いゲストもいましたね。 驚いたのは、東南アジア系の女性から黄色い液体の入ったビニール袋を渡されたことがあって。生温かくて、もしやと思ってトイレに行って確認すると、お小水でした。 あと、トイレを掃除していてお礼をされたのは8年間でたった2回だけ。確かに、ふだんわたしも公共のトイレで掃除をしている方にお礼を言ったことはなかったんですが、今は声をかけられるタイミングがあれば、「お疲れさまです」「ありがとうございます」と言うようになりましたね。 ──困ったキャストは? どこの職場もそうですが、どうしても自分と相性が悪い、苦手な人っていますよね。 同僚のKさんがまさにそれで。周りに聞こえるようにいつも昔の武勇伝を披露するような人でした。しかもゲストに対する態度が悪い。レストランの場所を聞かれたとき、「あっちのほう」とアゴをしゃくり上げて答えるような人でした。仕事もしないので若いキャストの中には、Kさんを毛嫌いして、徹底的に避けている人もいました。 上司のSV(スーパーバイザー)にもまったくやる気のない人がいました。夏の暑い日はクーラーの効いたオフィスから出てこないんです。しかも「些細なことでいちいち連絡とか相談をしないように」と朝礼で言ってくる。働きたくないオーラが出ていました。