大事なのは「腰」!疲れにくい体と乱れない心をつくる「狂言の伝統」をもとにした「正しい立ち方」
「ババ垂れ腰になるな」と言われて育った
「ババ垂れ腰」とは、和式便器にまたがるときのような姿勢や、漏らしてしまって腰を反らしたような姿勢、いずれをも指します。 私は昔、父からよく狂言の姿勢においては「ババ垂れ腰になるな」と口を酸っぱく言われたものです。 正しい姿勢を保つためには「腰を反らさず突き出さず落とす」ことが非常に重要です。 腰を反らさずに落とすとは、「へっぴり腰にならない」、つまり腰を引いたり反らせたりせずに、まっすぐ垂直に下ろすことを意味します。 なお、腰を落とす際には、頭の頂点(百会)から会陰に至る身体の軸を意識し、重心を丹田に集めることが大切です。 受け腰、つまり腰を前に突き出すことなく、腰が自然に落ちる位置を感じながら、身体を垂直に保ちます。 これにより、姿勢が安定し、無駄な筋肉の緊張が緩和され、全身のエネルギーが効率よく使われるようになります。 この姿勢は、体幹の筋肉を効果的に活用し、下半身の安定を保つために不可欠です。 狂言では演技中、腰を落とすことが基本となっており、この動作が全身のバランスを取るための基盤となっています。
基礎代謝や免疫力の向上も期待できる
この際に大切なのは柔軟性です。 「柔よく剛を制す」という言葉もありますが、力を入れたり身体を張ったりするのではなく、緩めた状態(緊張しつつ脱力)で構えることを意識します。 脱力と柔軟性はとても大事な要素です。 健康面で考えても、腰を反らさずに落とすことで、骨盤が正しい位置に保たれ、腰椎への負担が軽減されます。 反り腰の状態では、腰椎に過度なストレスがかかり、腰痛や坐骨神経痛を引き起こすリスクが高まります。 一方、腰をまっすぐに落とすことで、腰椎が自然な位置に保たれ、骨盤底筋がきたえられ、腰痛の予防や改善に効果があります。 さらに、この姿勢は下半身の筋肉、とくに大腿四頭筋やハムストリングス、臀筋をきたえる効果があります。 基礎代謝の向上や脂肪燃焼にも寄与します。 また、腰を落とすことで、下半身の筋力アップやミトコンドリアの活性化、マイオカインの分泌が促されます。 とくに、ミトコンドリアは細胞のエネルギー工場であり、その活動が活発になることで、免疫力の向上や基礎代謝の向上が期待できます。 こうした動作は、身体の内側から健康を促進するための重要な手段であり、日常生活の中でも取り入れることで、健康維持に大きな効果を発揮します。 つづく記事〈なぜ昔の日本人のほうが「元気な状態で長生き」だったのか?「狂言師」に長寿が多い「4つの理由」〉では、狂言師がいつまでも「元気」な理由を探る。
茂山 千三郎(狂言師)