社説:酒造り無形遺産 京滋の地域文化に光を
日本酒や焼酎、泡盛、みりんなどの「伝統的酒造り」が国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録される見通しとなった。12月に正式決定する。 京都、滋賀をはじめ全国各地に伝わる酒造りの文化に光を当て、地域の活性化へつなげたい。世界的な和食ブームの中、日本の酒の輸出拡大も期待されよう。 日本からの無形文化遺産の登録は2001年、能楽が選ばれて以降、和食や風流踊(ふりゅうおどり)に続く23件目になる。 儀式や祭事と深く関わってきた各地の酒造り。地域の結びつきに貢献していることが評価されたといえよう。 伝統的に、カビの一種のこうじ菌を使ってコメや麦など穀物を発酵させる日本独自の技術だ。杜氏(とうじ)や蔵人が地域の風土に合わせて、知恵と経験で育んできた。 日本酒で、京都は酒どころ・伏見をはじめ約40の蔵元があり、兵庫県に次いで全国2位の生産量を誇る。良質なコメと水を使って個性的な地酒が生まれた滋賀は、約30の蔵元が酒造りを続ける。 京都市は13年に日本酒乾杯条例を制定するなど後押ししてきた。酒造りの盛んな自治体同士で連携を深め、さらに魅力を発信したい。訪日客向けの酒蔵巡りや利き酒など体験型観光と結びつけるのもいいだろう。 日本酒は「SAKE」として人気を集め、輸出が拡大している。23年の輸出額は約411億円で、10年前の約4倍に達した。13年の「和食」の遺産登録後、3倍以上増えた海外の日本食レストランとも相乗効果が見込まれよう。 一方、嗜好(しこう)の多様化などを受けて国内消費は落ちており、農林水産省によると、ピークの1973年に比べて4分の1以上減っている。後継者不足などから蔵元の数も、今世紀に入って約4割減少している。 懸念されるのは、酒造りを支える足元の弱体化だ。機械化が進む中、日本酒造杜氏組合連合会所属の杜氏の数は、65年の最盛期から5分の1に減った。一方で、原料や製法にこだわった高付加価値の酒造りや、女性や外国人ら多様化した担い手の活躍もみられる。 酒米を作る農家は高齢化し、収量の減少などが危惧される。地球温暖化の影響で、原料のコメの栽培、品質管理が難しくなっているとも指摘されている。 登録はゴールではない。酒文化全体を見直す機会とし、持続的な取り組みと支援を求めたい。