ネットで先鋭化する“境界知能” 障害とは診断されない“はざま”の生きづらさ 「レッテル貼りに使われると検査や支援の検討困難に」専門家は危惧
■境界知能の特徴
境界知能の特徴は「注意」「記憶」「言語理解」「知覚」「推論・判断」の5つの認知機能に現れる。勉強ができないとやる気がないと勘違いされたり、状況が読めずに対人関係で失敗してしまうことがある。
昭和大学・発達障害医療研究所所長の太田晴久氏は「境界知能は病名ではない」と指摘。「知的障害のカテゴリーに当てはまらないけれども、“困りごと”を抱えている人たち。コミュニケーションに限らず、作業能力など広く浅く苦手というのが特徴としてはある。気づかれにくいため、学生時代に大きな問題がなくても、仕事で複雑な作業をすることになった途端に顕在化することがある。本人も問題があると感じられず、無理して鬱状態になって、受診して初めて境界知能だと分かるのがよくあるパターンだ」と説明。 発達障害とは別物だというが、「発達障害を疑って受診し、IQ検査をすると境界知能もあったという併存するケースはよくある」と付け加えた。
境界知能の検査は、10個の基本検査をすることで5つ(全検査IQ、言語理解指標、知覚推理指標、ワーキングメモリー指標、処理速度指標)の結果を算出する「知能検査(WAIS-IV)」と「心理士など専門医による問診」で行う。 太田氏は「知的障害はIQを元に、うまくいかないこと、どのくらい社会に適応できているかということから、専門家が総合的に判断する。しかし、境界知能に診断基準はない。知的障害に当てはまらないが、IQ値がぎりぎり達しない人たちを境界知能と表現する」と述べた。
■境界知能=低学歴のレッテル貼りは危険
太田氏は、「境界知能」という言葉は支援が受けられず困っている人へのサポートのためにあり、低学歴のようなレッテルとして使われると抵抗感が生じ検査・支援の検討が困難になると危惧する。 「ネットを見る限り非常に侮蔑的に、他人を批判するための言葉として使われてしまっている。IQ検査をして“あなたは境界知能だ”と伝えるのは非常に気を遣うし、言われた方もショックを受ける。そういう中で、患者さんや当事者から離れた場所でワードだけが使われてしまうと、偏見に繋がって必要な検査ができなかったり、本人を傷つけてしまったりする」
言葉だけが一人歩きしてしまう要因として、ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「ネットの人たちは、いかに相手が気持ち悪くなるかという罵倒用語を探している。今までは知的障害者やアスペと呼んだりしていたところに、境界知能という言葉が出てきて、これ幸いと使う層が一定数いる」と指摘する。 太田氏は「境界知能で困っている人とちゃんと接したことがないのだと思う。外来に来ている人たちは非常に苦しんで悩んで過ごしている。その人を罵倒する気持ちには通常ならないだろう。頭の中のワードと実態がずれているのが現状だと思う」とした。 (『ABEMA Prime』より)