志尊淳インタビュー「求められた役に全力で取り組む。10年抱えていた気負いは消えました」
叫びを上げている人がいるのに、気が付かないだけかもしれない
──岡田安吾という役を通して学んだことは? 「ひとつお伝えしておきたいのは、観客のみなさんには自由に物語を感じてもらえたら、と思っています。観る人が勉強になる、特別な映画だと捉えてほしいわけはないんです。岡田安吾がトランスジェンダー男性なのはひとつの前提として、心に傷を抱えた貴瑚(杉咲花)、児童虐待を受けていた少年(桑名桃李)など、登場人物にそれぞれの境遇があり、思いがあるので、この作品からいろんなものを感じてくれたら。 もし、トランスジェンダー男性がどういう人なのか、詳しく知らなければ、ぜひこの映画を見てください。みなさんが想像しているよりも、たくさんトランスジェンダーの方が周囲にいるかもしれません。もしかしたら、叫びを上げている人がいるかもしれないのに、声が聞こえていないのかもしれない。この作品をきっかけに、その声をキャッチしてくれる人が1人でも増えてくれたら嬉しいです」 ──劇中、岡田安吾はさまざまな場面で貴瑚を支えていきます。撮影中に、志尊さんご自身も貴瑚役の杉咲花さんを何があっても支えると決めていたとか。 「なるべく安吾の気持ちでいたかったので、撮影期間中は絶対に花ちゃんを支えようと思っていました。成島監督の世界は、カメラが回っていないときの雰囲気も含めて、全てから滲み出てくる世界観なんです。だから、結果的にそれがアンさんと貴瑚の関係性に結びつくと思いました。それに、貴瑚の役柄は精神的にもとてもハードだったんです。貴瑚に入り込んだ花ちゃんは本当に大丈夫かなと心配になったこともあったし、なるべく近くにいて味方になってあげたいという気持ちもありました」 ──今作では、人と人のつながりの大切さを感じましたが、志尊さんが大切にしているつながりとは? 「この仕事を始めて、13、4年経ちます。知り合いはたくさん増えたけれど、深く話し合える人は限られています。でも、その人たちは自分にとってはかけがえのない人たちなんだと、再認識する瞬間が、最近たくさんあります。そんな大切な人には愛を注ぎたい。この作品を経験して僕が感じたメッセージでもあるし、これから自分がやっていきたいことでもあります」