「ただ選ぶだけの存在ではない」、一般市民が憲法私案を発表する意義とは
「改憲派と護憲派、いずれにも加勢するつもりはありません。一人の人間として憲法に対する考えを持ちたかったのです」。今年5月、東京都武蔵野市で開かれた有志団体「憲法未来研究会」のシンポジウムで、一人の青年が出席者約30人にこう語りかけた。彼は今年2月、憲法私案を自らの手で作り上げたという。
日本の未来のあり方を議論したい
東京都町田市に住むシステムエンジニアの桐山洋平さん(26)。憲法私案を約4か月かけて作り、ブログなどで公開してきた。4月には、地方議員の有志団体「龍馬プロジェクト」会長の神谷宗幣(かみやそうへい)氏とともに「憲法未来研究会」を設立した。 桐山さんが、憲法に深い関心を抱くようになったのは2014年、集団的自衛権の行使容認に反対するデモに参加してからだった。 集団的自衛権をめぐる憲法解釈で容認派と反対派が激しく対立したこの問題にかかわるうちに、憲法で「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」とうたいながら自衛隊が存在するなど、憲法と現実とのギャップが気になりはじめたという。 「私案を広めて改憲を目指す狙いはなく、私案をベースに日本の未来のあり方を議論したい」と桐山さんは話す。
一般市民が憲法私案を発表することの意義
一般市民として憲法私案を作成しているのは、桐山さんだけではない。SNS「ミクシィ」のコミュニティで私案を公表するのは、愛知県名古屋市に住む元地方公務員のハンドルネーム「み枡屋たかし」さん(61)だ。 2015年に作成してから、現在にいたるまで少しずつ手を加え続けている。「自分で考えようと思ったのは、やはり有権者だから。憲法改正が発議されて国民投票にいたった場合、判断をしなければなりません。その時に備えて、自分なりの憲法観を持つことが重要です」。 私案を作ってみて憲法と法律の関係に改めて気づき、「大幅な改憲は今の法律にも影響がおよび、世の中に大きな混乱を招きかねない」と考えるようになったという。 千葉県千葉市在住の30代男性会社員は、2012年から自らが運営するサイトに私案を掲載している。「ルールを現実に合わせるのではなく、現実をルールに合わせることだけに70年もの時間が費やされている」など、憲法に関する論議に不満がつのり、自分の気持ちを落ち着かせるために作成したのであって、政治的な意図はないという。