テロ発生後ビル内で語られた生きる希望『ナインイレヴン 運命を分けた日』
2001年9月11日、全米を、全世界をも震撼させる米同時多発テロが発生した。ニューヨークの世界貿易センタービルでは、現地時間午前8時46分、北棟にアメリカン航空11便が衝突、次いで午前9時3分、南棟にユナイテッド航空175便が衝突した。 衝撃音と共に飛行機はビルに食い込み、オレンジ色に炎上し、やがて青空を分断するような黒煙が上がる。映画のCG映像を観ているようなこの光景は、幾度となくニュースで見て目に焼き付いている。この悲劇に多くの人は涙し、怒りの感情を生み出してから11日でもう16年が経つ。忘れてはいけない記憶だが、時の流れはそうはさせてくれない。 このテロを題材にした映像作品、同ビルからの生還者や飛行機の乗客の証言に基づいたドキュメンタリーや映画は数多く製作されている。しかし、当日、ビル内にいた人々の物語はまだなかった。9月9日(土)公開の『ナインイレヴン 運命を分けた日』は、舞台作品『エレベーター』をベースに新鋭マルティン・ギギ監督が映画化した。
あの日を忘れないようにするために ひとつひとつ集めたエピソードを映画に
「この映画を撮ったのは、世界が一つになったあの日を忘れないようにするためです。私たちが当時何を感じたのか、そして皆が平和を願ったうえで世界的に高い精神性でつながることができるということを忘れていると思います」 当日はロスにいたというギギ監督だが、ニューヨークが攻撃に遭っていると、友人に朝起こされ、ニューヨークや東海岸に住む家族や、同ビルで働く友人を心配し、恐ろしくて涙をこぼしたという。
映画は実話で構成され、当時、あのビルにいた人たちの証言を基に登場人物を脚色していったという。エレベーターに偶然の乗り合わせた5人には、実業家のジェフリー(チャーリー・シーン)と離婚調停中の妻イヴ(ジーナ・ガーション)、バイクメッセンジャーのマイケル(ウッド・ハリス)恋人に別れを告げに来たティナ(オルガ・フォンダ)、ビルの保全技術者のエディ(ルイス・ガスマン)。そして、エレベーター内部と唯一つながるオペレーターのメッツィー(ウーピー・ゴールドバーグ)だ。 「ここで語られるエピソードは実話ですが、エレベーター内のメンバーについては脚色をしました。白人の金持ちとその離婚調停中の奥さん、不倫関係を清算しようと神経症を患う女性、ギャンブル好きのプエルトリコ人、娘の1歳の誕生会をする約束だった黒人のメッセンジャー。まさにニューヨークの街の縮図のような空間を描いてみました」 当事者たちに話を聞いていくという作業はとても精神的にもつらかったという。なかでも、あるタクシードライバーの話は切なくてやりきれない。 「彼はこの日、娘さんと最上階のレストランで朝食を摂ろうとしていました。ところがエレベーターでレストランに到着すると、彼は財布を車に忘れたことに気付いて、娘さんをレストランに残したまま、車に取りに向かいました。ちょうどそのときに攻撃を受け、彼は難を逃れましたが、彼女は帰らぬ人となりました」 さまざまな実体験に向き合い咀嚼し、一つの物語にリアリティーを与えていくという作業を経て、より登場人物の背景をしっかり描写できたという。朝、「行ってきます」と出かけて、果たせなかった約束はいったいいくつあったのだろうか?