井上弟・拓真がWBC世界バンタム挑戦権獲得。広がる兄弟4団体制覇の夢構想
試合後の敗者の控え室。枝川会長が「なぜいかなかったのか?心の問題か?」と、聞くと、ヤップは肘や肩をさすってこう嘆いた。 「いきたくでも腕が動かなかった。肘がだるくて上がらなかった。コンディションの問題だと思う」 一時、体重は、66キロまで増え、減量に労力を費やした。試合前のアップからパンチに体重がまったく乗っていなかったという。 一方の拓真は、2年前に手術をした右拳の不安を一切、見せなかった。 「練習から、やっと拳の芯で気にせず打てるようになった」 2016年の年末に当時WBO世界バンタム級王者だったマーロン・タパレス(フィリピン)への挑戦が決まっていたが、スパーリング中に右拳を脱臼して中止となり手術を受けた。以降、時間をかけ復帰したが、練習でも、その右を思い切り打てていないシーンを何度か見かけた。だが、時間をかけて、ようやく完治したのだろう。ここまで久高寛之、益田健太郎という国内トップクラスのボクサーと戦い、「怪我でブランクを作ったが、結果的にいい経験を積むことができた」と前向きに捉えた。 勝負はリングに上がる前に決していたのかもしれない。 遠回りをしたが、ついに世界挑戦権を手にした。 WBCバンタム級王座は、現在空位。3月に山中慎介の挑戦を受けたルイス・ネリ(メキシコ)が前日計量で体重超過の愚行を犯して王座を剥奪されて以来、空位のままだったが、10月に1位のノルディ・ウーバーリ(フランス)と4位のルーシー・ウォーレン(米国)で王座決定戦が行われる予定。ただ新王者は、2位のタイの選手と指名試合を行わねばならず、拓真は、その勝者に挑戦する方向となる。 「WBC、は昔から黄金のバンタムと言われる。(印象?)長谷川(穂積)さん、山中(慎介)さん…そして辰吉(丈一郎)さんの3人ですね。憧れの緑のベルト。その名に恥じないよう、しっかりとチャンプになって勝っていきたい。一発で取りたい」 今回は、髪の毛の真ん中を緑色に染め、ガウン、トランクス、シューズにも緑をあしらって統一した。 「世界戦では、髪の毛の真ん中を黒で周囲を緑の逆バージョンにしようかな」 それほど憧れのベルトだ。 大橋会長は、「いろんなパターンが考えられる。何も決まっていないけれど、来年、尚弥のWBSSの決勝と一緒にできたりしたら理想なんだけどねえ」と夢構想を語る。10月7日(横浜アリーナ)にWBSSの1回戦でファン・カルロス・パヤノ(ドミニカ共和国)と戦う兄の井上尚弥は、それに勝てば、来年は準決勝、決勝と2試合を戦う。タイミング的には、うまく弟の世界初挑戦が符号するのかもしれない。 井上尚弥の準決勝、決勝は、うまくいけば、IBF王者、WBO王者との統一戦になっていく予定で、拓真がWBC王座に就けば兄弟でバンタム級の4団体制覇という偉業を達成することになる。