【選挙結果にも左右され】解禁から半年も…日本でライドシェアが浸透しなかった「根本的な欠陥」
あくまで「パートタイム」的な認識
’24年度を交通インフラの視点で後に振り返ったとき、大きな転換期となった一年として記憶されるかもしれない。タクシー会社主導のもと、自家用車で乗客を有償送迎するサービス「日本版ライドシェア」の元年となったからだ。 【写真】すごい熱意…! 河野太郎氏・ライドシェア出発式での鬼気迫るスピーチ だが、4月の解禁から半年強が経過した今、ライドシェアに関してのニュースや議論は収束しつつある。なぜライドシェアはなかなか日本になじまないのだろうか。 11月に国交省が公表した実数をみると、参加するタクシー事業者は1242社。先行した12地域での登録ドライバーは5645人となっている。数字だけを見ると、「急速にサービスが普及した」と、とれなくもない。しかし、実態でいえば、運行実績がゼロという地域が相次ぐなど、課題のほうが大きい。根付かなかったのは、未だ拭えぬ安全面への不安が影響している。 「全日本交通運輸産業労働組合協議会」は、月1回以上タクシー利用のある1053名を対象としたインターネットでの意識調査を敢行。結果に目を通すと、全面解禁へ向けた法整備の状況について、安全性の観点から慎重な検討を求める意見が約62%となっていた。 具体的には、「交通事故発生時の補償や交渉」「ドライバーによるわいせつ・盗撮行為」を挙げる声が9割近くに及んだ。日本版ライドシェアにおいて大きなトラブルが起きたという声は聞こえてきていないが、潜在的な不安を抱える層が一定数いることは間違いない。 筆者はライドシェアで働くドライバーを複数人、取材した。そこで感じたのは、現状の日本版ライドシェアは「タクシー会社のパートタイマー」的な要素が強い、ということだった。半年強が経過した今も、その印象は大きく変わっていない。 「利用者の多くは本国でも利用している外国人」 「日本人の利用は偶発的(アプリのシステム上の)で、割合でいうと少ない」 「想定していたよりは稼げている。一方でガソリン代などの持ち出しも大きい」 「今のように時間限定の稼働だと本腰は入れにくい」 「隙間時間に働けるメリットはあり、自営業者やフリーランス向けの働き方である」 「基本、アプリがずっと鳴っているので、待機時間はほとんどない」 「今後も継続して働けるかは不透明だ」 現場から聞こえてきたのは、上記のような声だった。 外国人観光客にとっては本国でも活用する「Uber」などの配車アプリとならび、好んで利用しているサービスではあるが、日本人の視点でいうとタクシーとの差はほとんどない。わざわざライドシェアを選ぶ、というユーザーは限定的だということだろう。 ◆「必要性」も疑問に タクシー事業者は長年、ライドシェアに対して強固に反対姿勢を示してきたが、本質的には今もさほど変わっていない。全国ハイヤー・タクシー連合会は1社1車両の日本型ライドシェア運行を目標に掲げているが、その受け取り方にはかなり温度差がある。都内のタクシー事業者の幹部は「お上から言われた“ノルマ”みたいなものです。現状、タクシー事業者にとっては(導入の)メリットは感じられない」と明かす。 もう1つ、見逃せないポイントがある。それは、衆議院選挙での自民党の惨敗。そして、立憲民主党の大幅な議席増だ。ライドシェアの解禁に積極的だったのは自民党と維新の会。両党共に衆議院選挙で議席を減らした。 立憲民主党の一部には解禁に向けて動いてきた議員もいるが、労働組合などの支持母体の影響もあり、反対意見が中心だ。野党系のタクシー政策議員連盟は計154名に膨れ上がり、改めてライドシェア反対の意を示している。このことからも、ライドシェアの法整備や新法が加速度的に進んでいくという目算は低い。 あるタクシー事業者代表は、筆者にこう話した。 「衆議院選挙の結果を受けて、ライドシェア議論はひとまず据え置きという認識です。しばらくは日本版ライドシェアの浸透を目指す、という形で進んでいくでしょう。ただし、’25年夏の参院選の結果次第では、一気に全面解禁へと進んでいく可能性も残されています」 ライドシェア解禁の機運が高まった背景には、’22年頃から叫ばれた「タクシー不足」があった。現在、都心部を中心にタクシードライバーの数はゆるやかに回復傾向にあり、若返りも進んでいる。 ライドシェア推進を掲げる自民党関係者は、こんな見解を示した。 「長期的な視点でみると、タクシードライバーの確保が困難となり、移動難民が出てくることは明白です。間口を広げるためにも、働き手に全く異なる選択肢を示すことは重要になってくる」 日本人の生活にライドシェアは本当に必要なのか――。選挙などの外的要因の影響も受ける中、反対派と推進派の綱引きは今後も続きそうだ。 取材・文:栗田シメイ
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