『ザ・トラベルナース』が問いかける“ハラスメント”の先 森田望智の強烈な言葉も
「過去に相手がハラスメントだと少しでも感じることをしてしまったと思う方、手を挙げてください」 【写真】『虎に翼』ではおっとりとした“花江ちゃん”を演じていた森田望智 務めている西東京総合病院で行われたハラスメント研修で、皆が目を閉じている中、講師からこう問われた歩(岡田将生)は、迷いながらも手を挙げた。そして、なんとなく気になって目を開け、隣を盗み見ると、なんと静(中井貴一)は手を挙げていなかった。驚いて声をあげそうになってしまう歩。きっと彼の脳内には、普段、静から言われている「バカナース」という言葉がこだましていたはずだ。 11月14日に放送された『ザ・トラベルナース』(テレビ朝日系)第5話は、ナースも日々直面するハラスメントがテーマだ。 中堅ナースの吉子(安達祐実)は、新米ナースの柚子(森田望智)を指導しているがうまく噛み合わず、関係がギクシャクしていた。 吉子は柚子を「半人前のくせに文句ばかり言う」と感じており、一方の柚子は「吉子の言葉がキツすぎる」と感じていた。また、ナースは患者さんとの関係でも悩みが尽きない。ナースとしての責任感が強い吉子は「体を触らせてでも仕事をしなさいよ」と指導する。でも、柚子は「それはおかしい」と感じていた。 働く人たちが、職務以外のことで嫌な思いをしたり、何かを我慢しすぎることはもちろん避けたほうがいい。誰だって気持ちよく働きたいし、いい環境がいい仕事に繋がる。でも、一人ひとり、仕事に求めるものや仕事に対する考え方は異なる。昨今の“パワハラ”や“セクハラ”をはじめとしたハラスメントは、こうした考え方の違いからくるものなのかもしれない。 それに、一般的に、ハラスメントに対する意識が低いと言われてしまう世代にも、言い分はある。 新たに西東京総合病院に入院してきた五味武久(段田安則)は、入院初日から、歩もあきれ返るほど、周りにパワハラ三昧。大きな会社で本部長をしているようだが、 わざわざ私物を届けに来てくれた部下・茶谷啓介(中島広稀)に罵詈雑言を浴びせていた。しかも、最初は手術をすれば治ると言われていた五味のがんが、不意の病状悪化で手術適応外に。医者から機械的にそれを告げられた五味は、不安定になり、さらに横暴な態度を見せていくようになる。 五味は偶然にも静の少年時代をよく知る同級生だった。会社の同僚からよく思われず、病院でも孤立しようとしている五味に、ナースとして静は寄り添おうとする。安心した五味の口からは自然と郷里の広島弁が出てきた。これが“男の友情”というものなのだろうか。 「若い頃は、アホな上司にへつらって、怒鳴られて、頭はたかれて、“なにくそ!”と思うて頑張ったもんじゃ」 「わしの人生、全部否定せんでくれや」 五味が当時の上司から受けてきたことはきっと現代の価値観からしたら“パワハラ”だろう。自分がされてきたことが“当たり前”と感じていたから、同じようにした。彼にとってはそれだけのことだったのに、自分を慕ってくれる人がどんどんいなくなってしまい、「自分が否定された」ように感じてしまったのかもしれない。 本作のようなヒューマンドラマは、さまざまな世代の、まさに多様な価値観を浮き彫りにする。新人の柚子、中堅の吉子、彼女たちとは職種は違うが、社会人ベテランの五味。彼らには彼らなりの考え方がある。そしてそれは、ドラマを観ている私たちにも言えること。本作は、日常生活では実感できないような、人それぞれの考え方をあたたかく、優しく、丁寧に教えてくれる。 おもしろいのは、最終的に人の心に響く言葉というのは、若さや地位が関係ないということだ。柚子は横暴な五味にブチギレ、医師でもないのに五味に「1カ月もすれば死ぬ」と勝手に余命宣告してしまったのだが、五味はそれがあったからこそ「なんかスッキリした」と言った。柚子の言葉が、五味を現実と向き合わせたのだ。 歩たちが受けたハラスメント研修では、「互いにリスペクトを」と言われていた。だが吉子は柚子の口調は厳しく、歩と静はケンカしているように軽口を叩きあう。それでも互いのことは認め合っているのだ。リスペクトの表現の仕方も人それぞれなのだろう。
久保田ひかる