韓国軍の「宣伝スピーカー」、実は音が小さい?対北朝鮮心理戦の効果に疑問の声
いま再び北朝鮮と韓国の間で緊張が高まっている。両者の対立が深まっている理由の1つが、北朝鮮に向けてKポップ音楽や政治的メッセージを大音量で流す、韓国のスピーカーだ。 だがこのスピーカー、実際は音が小さすぎるという主張を巡って第三者機関による監査や訴訟が起こされており、この心理戦の試みが果たしてどれほど効果をもたらしているのか疑問が生じている。 韓国は今月9日、2018年の南北合意で中断していた北朝鮮に対する拡声器を使った宣伝放送を再開。現在のスピーカーシステムは、宣伝放送をめぐる争いが原因で両者が軍事境界線付近で交戦した後の、2016年に導入されたものだ。韓国軍によれば音は約10キロ先でも届くよう設計され、境界線に近い開城市の住民20万人に届くほどだという。 だがロイターは当時公開された監査報告書を確認。新たなスピーカーにそこまでの性能はなかったという。 元海軍将校のキム・ヨンスさんは、これらの問題を調査し、当局に報告するのを支援した監査機関の責任者を務めている。 「スピーカーには固定式と車載型の2通りある。固定式はより北朝鮮に近く、より多くのアンプが設置されている。固定式だと約5―7キロ先まで届くと聞いた」 ヨンスさんによると、専門家らは車載型はさらに効果が低いことを発見したという。 韓国国防省はスピーカーの製造元の提訴を試みたが、様々な環境要因が複雑に絡み合い、スピーカーの性能を一概に評価するのは難しいとして裁判所は訴えを棄却した。 一方、ヨンスさんと監査機関によれば、2017年に行った実験では、メッセージや歌は約7キロ以上離れたところからは内容が理解できず、理解するためには約4.8キロ以内に近寄る必要があったという。したがって例え放送が開城に届いたとしても、住民は不明瞭な音声しか聞けないことになる。 韓国国防省はロイターに対し、スピーカーの性能が制限があるとは考えていないと回答した。また気温や湿度、地形などの条件によって性能は異なるとしている。 脱北者のキム・ソンミンさんによると、南北の境界線付近は山岳地帯であるため、これがスピーカーの困難を増していると指摘する。ソンミンさんによると、北朝鮮もスピーカーを大音量で鳴らし、韓国の放送をかき消そうとしているという。 それでもソンミンさんは、音楽とメッセージはそれを聞いた人に大きな心理的影響を与える可能性があると話す。ソンミンさんは現在、ソウルで北朝鮮向けにニュースを放送するラジオ局を運営している。 「放送を聞いてすぐに脱北する人は多くない。しかし外の世界への憧れを植え付けたり、これまで教えられてきた教科書が間違っていると気づかせたりする役割はある」(脱北者のキム・ソンミンさん) 当局が2017年に韓国メディアに行った説明によると、境界線付近にいた北朝鮮兵士少なくとも2人が韓国側の宣伝放送を聞いて亡命したという。 また専門家らも、北朝鮮当局の怒り様を見れば、宣伝放送が現地の人々に何らかの影響を与え、この権威主義国家の神経を逆なでしている可能性が高いことを示していると話す。