[ハリウッド・メディア通信] 仏女性監督のボディ・ホラー映画 『The Substance (原題)』のホラーを超えた革命
主演女優賞が囁かれるベテラン女優デミ・ムーア
物語の主人公エリザベスはハリウッドの殿堂、ウォーク・オブ・フェイムに名を刻むほどの有名女優。50代をすぎて、そのキャリアの盛りは過ぎたものの、エアロビクスの女王、テレビ業界のスターとして輝いていた。その姿は1980年代の女優ジェーン・フォンダを思い起こさせる。ウォーク・アウト業界に革命をおこし、活動的なライフスタイルをモットーに美しく健康的な肢体を売りにしていた時代。映画の主人公エリザベスもまた、いつものエアロビ収録を終えて気持ちよく、自らのポスターが飾られる長い廊下を自己陶酔しながら歩くのだった。 しかし、ある日、表面上では彼女を褒めちぎる男性上司が、エリザベスを降板させて若い女性を採用する準備をしていることを知る。不安の境地で運転中に事故を起こし、失意のまま、病院に運ばれるエリザベス。そこで働く男性から若返りの道しるべを手渡される。その手段とは自らの体にサブスタンス、いわゆる薬物の入った注射器で施術するだけ。生身の自分と若返った自分が同じ人間であることさえ忘れなければ、7日間交代でかつての美貌を取り戻すことができると、一見簡単な規則をふまえてエリザベスは若返りを夢見るのだった。 主演女優デミ・ムーアは記者会見で、映画を見た人からの感想がこの映画に出演して最も嬉しいことだとコメント。映画は若さと美しさが「女性が愛される」条件という現代社会を風刺した映画だが、ある男性からは、今の自分を大切にして身体に危害を加えることを止めたと、女性だけでなく男性からも反響があったことに感銘していた。 アイドル女優として『セント・エルモス・ファイアー』などに出演し『ゴースト/ ニューヨークの幻』などでハリウッド女優トップになり脚光を浴びながらも常にタブロイドで騒がれてきたデミ・ムーア。まさに世間の羨望や敵意の眼差しを生き抜いてきた存在。『幸福の条件』『G.I.ジェーン』ほか身体を酷使しても、ハリウッド・ナンバーワン高級取り女優と悪意で騒がれたり、『素顔のままで』で脱いだことでも自己陶酔だと批判は絶えなかった。コラリー監督は、デミ・ムーアの外見のイメージだけでは、このエリザベス役に適しているか半信半疑だったそう。デミの半生をつづった回想録「インサイド・アウト(原題)」を読んで、映画のヒロイン像とぴったり一致することを確信。美しい女優像を作り上げるために、極度の心理的恐怖感を体験してきた女優デミ・ムーアだからこそ、この映画のテーマ、そしてコラリー監督の意図するボディー・ホラー映画にも挑戦。クローズアップになる自身のお尻を見せることに、今までには感じなかった解放感があったともコメントしている。ベテランに負けない助演女優マーガレット・クアリーとの息のあった会見は、アカデミー前哨戦をリードするチームワークに溢れていた。
文 / 宮国訪香子
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