地図への愛があふれる博物館 北九州市のゼンリンミュージアム/小倉北区
全国でも珍しい、地図に特化した博物館が北九州市小倉北区にあります。住宅地図で知られるゼンリン(北九州市戸畑区)が開設した「ゼンリンミュージアム」。スマートフォンでいつでも簡単に地図が見られる時代ですが、学芸員の資格を取得した社員たちが“作り手”の気概を胸に、その奥深さを発信し続けています。 【写真】味わい深いゼンリンミュージアム
住宅地図はありません
同館は2020年6月、複合施設「リバーウォーク北九州」の14階にオープン。同施設で03~19年に運営していた「ゼンリン地図の資料館」のあとに新設されました。 「地図文化の継承・振興を目指して設けました」と同社の広報を担当する都丸優樹課長(40)は紹介します。館名に「ゼンリン」の文字はありますが、「社史も住宅地図もここには1冊もありません」。”地図愛”の発信に会社のPRは不要――のようです。 常設コーナーには、16~19世紀の日本地図がずらり。列島を団子がくっついたように描いた地図もあり、新井啓太副館長(38)は「西洋にとって当時の日本がいかに“未知の国”だったかが伝わります」と話します。 同館が所蔵する地図や関連資料は、約1万4000点に上るそうです。常設・企画展でいつも計120点ほどが展示されています。
「愛」がいっぱいの企画
館長を含む学芸員は「Z(ズィー)キュレーター」と称しています。学芸員を指す英語「キュレーター」に、ゼンリンの頭文字「Z」を組み合わせたもので、5人全員がゼンリン社員です。 社内公募で選ばれたメンバーで、通信制大学などで学芸員の資格を取得。新井副館長も営業部門や広報担当などを経て、「大学で学んだ地理の知識なども役立てられたら」と考えて応募したそうです。 年3回の企画展は、Zキュレーターたちが協力して考案。現在開催中の「別府とマップと善隣と」(9月23日まで)は、2024年で市制施行100周年という大分県別府市の歴史を紹介しています。 日本有数の温泉観光都市である別府について、別府港の開発から始まる交通網の整備や、「別府観光の父」と呼ばれる油屋熊八の宣伝活動によって発展した歩みを、各年代の地図や資料を通じて伝えます。実はゼンリン創業の地でもあり、観光冊子から地図づくりへ進んでいった社業の発展についても触れています。 入館すると、企画展オリジナルのチケットホルダーがもらえます。これを目当てに、企画展ごとに来場するリピーターもいるそうです。