ギザギザの葉と、鮮やかな赤い実。何という植物でしょう？ ヒント：お正月の縁起物とされています。（撮影／蛭田有一）

まちなかを歩いているとよく目にするのが、赤い実の植物。じつは、驚くほどたくさんの植物が、よく似た小さな赤い実をつけるのです。ナンテン、センリョウ、マンリョウ、モチノキなど、科が違い、花や葉もさまざまなのに、実が似ているのはなぜでしょう？『道草ワンダーランド　まちなか植物はこうして生きている』（著・多田多恵子）から紹介します。

赤い誘惑　新天地に移動

クロガネモチ。モチノキ科の常緑樹。雌雄異株で、雌株には赤い実が集まってつく。（撮影／NP）

停止信号や郵便ポストが赤いのは、赤いとよく目立つから。植物の赤い実も、人と同様に赤い色に敏感な鳥に向けた効果抜群の広告です。　 実の内側では、柔らかな果肉にくるまってタネがそっと隠れています。鳥は実を丸飲みしますが、堅いタネは消化されずに消化管を通過し、落とし物の中に出されます。　 植物は根を張って動けませんが、タネはこうして鳥に運ばれ、新しい場所にまいてもらうのです。しかも肥料つきで。

赤は鳥に目立つ色　冬は狙い目

ソヨゴ。実は垂れて熟す。モチノキ科の常緑樹で雌雄異株。「冬青」と書いてソヨゴと読む。（撮影／徳江彰彦）

赤い実は鳥に狙いを定めています。鳥が好む色、鳥の口にぴったりの小粒サイズ。丸くて表面はなめらかで、鳥が飲み込みやすくできています。鳥は嗅覚が鈍いことから香りに乏しいのも共通の特徴です。 秋から冬に熟すのも鳥のえさとなる虫が少ない時期だから。鳥を誘惑するには絶好のタイミングです。 赤い実は長く枝に残って人の目を楽しませてくれますが、これにも理由があります。枝を離れて落ち葉に埋もれてしまうと鳥に見つけてもらえません。鳥が食べてくれるまで樹上でじっと待っているのです。

まずい実も多い　その理由は？

ナンテン。メギ科の常緑樹。「難」を「転」じるとかけて、よく門に植えられる。実は有毒で、鳥は少しずつ食べる。（撮影／牧稔人）

鳥が食べる実を試食してみました。ところが苦かったり渋かったり、案外、まずい実が多いのです。あれ？　おいしいほうが鳥に好まれてより多く運んでもらえるのでは？ 考えてみましょう。もしも実がおいしくて鳥がその場に居座って食べ続けたなら、真下にふんの山ができてしまいます。それは困る。タネはちっとも運ばれません。もっと遠く、もっと広い範囲に、植物はタネをばらまきたいのです。 実がまずければ、誘惑につられて鳥が食べても、少し食べただけで飛び去ります。時間をおいて少しずつ、多くの個体が何度も食べにくることによって、タネは時間的にも空間的にも広く運ばれることになります。