今村駿介

　5日にあったパリ五輪自転車トラック種目の男子4000メートル団体追い抜き予選に臨んだ日本の一員として、五輪初出場の今村駿介（26）＝ブリヂストン、福岡県うきは市出身＝が力走した。3分53秒489の10位で、8チームで争う1回戦に進めず敗退。「自信を持ち臨めなかった。（チームの）速度に耐えられるだけのキャパシティーがなかった。力不足だと感じる」。力を発揮できなかった悔しい経験をかみしめた。 ■泣き笑いキュートなポーズを決める早田ひな【写真】 　「目に焼き付いている」。競輪選手として活躍した父・保徳さんの様子を幼少時から見てきた。母が自動車で先導し、父が自転車で追いかけ鍛錬に励む姿、鬼気迫る表情で体を鍛える姿。厳しい世界と認識した上で自転車競技の世界に飛び込んだ。 　競技が盛んな福岡・祐誠高で本格的に自転車に乗ることを意識して、中学時代は体づくりを目的として陸上に取り組んだ。進学すると、毎日部活でロード練習を50キロ。その後60キロの自主練習も行い、学校への往復も自転車だ。1日の走行距離が160キロに達することもあった。自宅では食事と睡眠だけという日々を過ごした。 　たゆまぬ努力は実を結ぶ。高校1年時は九州大会にもエントリーされなかったが、3年時はジュニア世界選手権で優勝した。23歳で迎えた東京五輪はリザーブだった。「パリに出るために何をしないといけないか。悔しさもあったが気持ちを切り替えて考えた」。さらなる鍛錬を重ね、自身を追い込んだ。昨年の世界選手権では、1日に4つの種目を走る過酷なオムニアムで日本選手初の銅メダルに輝いた。 　現役時代の保徳さんは筑後川の土手を通って自宅に帰った。いつも迎えがいた。幼少時の今村だ。「競技の自転車で背中はフラット。普通のママチャリならおんぶひもがあり、後ろは捕まる感じだけど、だらーんと手を握ることもなく、上に乗っかっとる感じでね」と保徳さんは懐かしがる。 　今村の原点だ。父の背中のぬくもりを感じながら「父のような選手になりたい。小学時には競輪選手になると決めていた」。そんな思いが結果の浮き沈みや、負傷もあった自身を支えた。 　10日にはリザーブの登録から急きょマディソンにも出場し、5位の好成績を収めた。悔しさと手応えを得たパリの経験を胸に刻み、大切な情景を力に変えて、またペダルをこいでいく。（パリ山田孝人） 【#OTTOパリ五輪情報】