映画「朽ちないサクラ」主演・杉咲花さん×原作・柚月裕子さん対談 苦しくても、踏み出す勇気はとても必要
正義と悪が「多様化」する時代に
――柚月さんは今作が映像化された意義をどうお考えですか。 柚月:どの作品もそうですが、特に『朽ちないサクラ』の主人公は捜査権限がない、一般的な人。そんな人が大変なものを背負って、その責任を取るために何かしなければと一歩踏み出そうとする姿、苦しみながらも「何かしなければ」という姿勢を描きたかったんです。スクリーンの中で、一生懸命苦しんで、もがいて、自分が思う道を貫き通そうとする人たちの姿に、きっと勇気が出たり「自分もがんばろう」って思ってくださったりする方が多いんじゃないかと。苦しくても、一歩を踏み出す勇気はとても必要だと思うので、今、この作品が実写化された意味はそういったところにあるように思います。 ――柚月さんの作品は「警察ミステリー」が主ですが、そこを主軸にするのは何かご自身に課しているものがあるのでしょうか? 柚月:私自身「何が正義で、何が悪か」が分からないんです。現代の法に触れることはもちろん罪であるけれど、特に今は「社会の多様化」と呼ばれている時代。それぞれの正義があって、それぞれが価値観を持っていて、それを信じて過ごしている方が多い。そういった中で「これが正義でこれが悪だ」とはかんたんに決められません。その気持ちはデビュー当時から持っていて、例えば公安は「国を守ること」が正義なのか、それとも見る側を変えればまた形を変えた姿になるのか。そういった多角的な視点の作品というのを昔から描いているように思います。 <杉咲花(すぎさき・はな)さんプロフィール> 1997年生まれ、東京都出身。主な出演作に映画「湯を沸かすほどの熱い愛」(2016年)やNHK連続テレビ小説「おちょやん」(2020-21年)など。映画「市子」で第78回毎日映画コンクール女優主演賞を受賞。待機作に「片思い世界」がある。 <柚月裕子(ゆづき・ゆうこ)さんプロフィール> 1968年生まれ。岩手県出身。2008年、『臨床真理』で「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、デビュー。13年『検事の本懐』で第15回大藪春彦賞、16年『孤狼の血』で第69回日本推理作家協会賞を受賞。他の著書に『パレートの誤算』『ウツボカズラの甘い息』『盤上の向日葵』『慈雨』『月下のサクラ』『風に立つ』『ふたつの時間、ふたりの自分』『教誨』『チョウセンアサガオの咲く夏』『ミカエルの鼓動』『風に立つ』 など。
インフォメーション
朽ちないサクラ 6月21日(金)。119分。原廣利監督。我人祥太、山田能龍脚本。柚月裕子『朽ちないサクラ』(徳間書店)原作。杉咲花、安田顕、萩原利久、豊原功補ら 出演。 公式サイト https://culture-pub.jp/kuchinaisakura_movie/ 公式X: https://twitter.com/kuchinai_sakura/ (文:根津香菜子)
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