1980年代に採用されたマニアックな日本車の装備3選 Vol.2
(2) 日産「シーマ」(初代):車内用加湿器
日産自動車が1988年に送り出した初代「セドリックシーマ」および「グロリアシーマ」(1991年の2代目からシーマに改称)は、“シーマ現象”という言葉が生まれたほど、単なる自動車を超越したヒットを記録したモデル。 2735mmのホイールベースのシャシーは、1987年登場の「セドリック」および「グロリア」(Y31)と共用。ボディ全長も30mm長いだけ。ノーズはやや低めで多少スポーティであったが、Bピラーレスの4ドアハードトップボディや薄いルーフ、それにロングノーズとロングデッキのプロポーションは共通。 バブル景気のムードみたいなものがあったのだろう。私自身は“シーマ現象”がフシギでならなかった。でも当時、イケイケムードだった日産プロダクトのファンとして、実際に選ぶ立場にいたら、セドリックではなくどうせだったら、シーマにしただろうか……そういうものかもしれない。 シーマは、ハンズフリー通話機能など、ドライバーズカーとして買われることが多かったように思うけれど、後席乗員を意識した装備も多かった。リヤシートヒーター(左側のみ)や角度調節式後席背もたれ、後席用ヘッドフォン、という具合。さらに「モイスチャーコントロール(加湿器)」のオプションも用意されていた。 家庭用の加湿器によく似ていて、取り外し式のタンクに水を入れる。前席のセンターコンソール後端にセットされる強制加湿タイプだ。のどを大事にする歌手からのニーズはあったかもしれないが、雨の日の運転でわかるように、車内はそもそも湿度が高め。むしろまめにメインテナンスしていないと雑菌がわきそう。 着想はユニークだけれど、2代目では廃止されてしまったのもよく理解できる装備である。
(3)ホンダ「バラードスポーツCR-X」(初代):ルーフベンチレーション
ホンダが1983年に発売した昭代「バラードスポーツCR-X」は、コンパクトな(ほぼ)2シーターで、魅力的なスタイリングだった。ホイールベースは2200mmしかなく、ボディ全長は3675mmと、思い切りがよい。 クーペボディに、テールが直角に裁ち落とされたような、いわゆるコーダトロンカスタイルが採用されていたのも斬新だ。当時は、アルファロメオの「ジュニアZ」(1969年登場)みたいだなあと、クルマファンとしては感心したものだ。 ザガートがボディ設計を担当したジュニアZは、風が室内に入ってこなくて、オーナーは往生していたと記憶している。CR-Xを担当したホンダのエンジニアがそんな事情を勘案したのかどうかさだかではないけれど、ベンチレーションシステムがユニークだった。 1.5では「アウタースライド・サンルーフ」か「ルーフベンチレーション」を選ぶようになっていた。発売当時、「ノーマルルーフ」設定車は1.3のみ。これもユニークだった。サンルーフは、ルーフ内に格納されるのでなく、外にスライドしていくタイプ。ルーフベンチレーションは、ルーフ後端にポップアップ式の四角い空気取り入れ口が設けてある。 「乗用車世界初、オーバーヘッドスタイルのルーフ・ラム圧ベンチレーションで、飛行機のように天井からフレッシュなエアが降りそそぎます。風量の2段切り換えと風向の調節により、快適な自然換気が可能です」 上記は当時のホンダが用意していたプレス資料によるもの。文中のラム圧とは、走行中に前からくる空気による風圧。CR-Xのルーフベンチレーションは、走行中により多くの空気を車内に採り入れる機構で、インサイドミラーのすぐ後ろの天井に、円形の空気吹き出し口があり、風量は2段階で調節可能だった。 ルーフに空気取り入れ口を設けるというアイディアを広めたのは、イタリアのスポーツカーブランド、アバルト。高速で長い距離をえんえん走るレコードブレーカーを手がけてきたアバルトは、1960年のモデルに潜望鏡型のルーフベンチレーションを採用。スポーツカーにも拡大した。CR-Xのようなルーフベンチレーションは、1990年代のラリーマシンの多くも採用していた。 ギリギリのところで効果はあるものの、エアコンがあれば量産車では不要。心意気はおもしろい。でも、じっさいに自分で選ぶなら頭上に青空が拡がるのがわかるスライディングルーフのほうを私なら選ぶ。
文・小川フミオ 編集・稲垣邦康(GQ)