「刑務所は再犯生産工場や」 刑期を終えた河井元法相 獄中で初めて知った受刑者たちの”声なき声”
●自主性を奪う刑務所 「立ち直りは本人任せ」
河井さんは著書で、受刑者が作業中にトイレを行き来するだけで18回も刑務官の許可を得なければならなかったエピソードを紹介している。 塀の中では徹底的に「自主性」を奪われる。それなのに、外に一歩出ると自分の頭で考え、行動しなければならない。塀の中と外とのギャップはあまりにも大きく、刑務所が立ち直りを阻むハードルを自ら生んでいるという見方さえできるのが実情だ。 「刑務所は国民に対するサービス産業だと思います。犯罪が減ることによって一番便益を得られるのは国民です。今の刑務所は施設を管理・運営するという発想ですが、サービス産業だと考えれば、受刑者の意識を変え、真っ当に人生を生き抜く力をつけさせることを一番大事にするようになるはずです。一生刑務所に押し込めてなんておけない。いつかは社会に戻すわけでしょ。出所した後の人生を刑務所に入った瞬間から考えさせる環境を整えなければなりません」 日本では今、刑法犯の認知件数が大きく減少傾向にある。一方で、刑務所を出た人の約半数がまた塀の中に戻ってきているという現実もある。そもそも懲役刑に意味はあるのだろうか。 「本人が反省しているかどうか、確かめるすべはないんです。私は出所した後のことを考えて、自由時間に本を合計で870冊読んだり英語の語彙を数千増やしたりして毎日毎日勉強しました。でも、多くの受刑者は自由時間に布団にくるまって寝ていました。もったいないなと思ったけど、刑務所では誰かが導いてくれるというようなことがありません。職員が受刑者の心情を把握する面接も入所直後の1回を除けば皆無でした。本当に受刑者任せにさせられているんです」
●検察の捜査に疑問「明示的な決まりを作るべき」
新聞報道によると、河井さんは2019年の参議院選挙で、妻の案里さんを当選させるために広島県内の議員ら100人に選挙運動報酬として合計約2900万円を配ったとして、東京地裁で懲役3年、追徴金130万円の実刑判決を言い渡された。 起訴内容を争ったが、「政治家として責任を取る」として刑に服することを決めた。だが、今も検察の捜査に疑問を持っているという。 当初、河井さんから現金を受け取った人たち全員が不起訴とされたため、河井さんの弁護団は裁判で「違法な裏取引が検察の取り調べで行われたことは十分に推認される」と主張したが、判決では無視された。 しかしその後、検察審査会の議決を経て被買収側の9人が在宅起訴、25人が略式起訴され、有罪判決が下った。 「弁護団は、最初から起訴されると分かっていたら『あの金は選挙買収でした』と自らが失職することに繋がるような、検察が欲しがる供述なんてする訳がないと考えて、私の政治的な責任とは別の観点から法律の運用や捜査の手法として検察が被買収側を全員不起訴としたのはおかしい、嘘の証言を生むものだと主張しました。それに、当局の恣意的な判断で『これはアウト』『この人はセーフ』と決めるのは危険です。 政治家は常に次の選挙が頭にあります。それを捉えて選挙買収だと断じれば、お店で買い物することなどおよそ政治家が行う日常生活全てが買収になってしまう。国会議員のみなさんは『自分は関係ないよ』と思っているはずです。私もこれまで先輩の議員が捕まることがありましたが人ごとだと思っていました」 河井さんはそう吐露したうえで、条文に曖昧さが残る公職選挙法を改正する必要性に言及した。 「だから、例えば、投票日から6カ月以内はいかなる理由でも金銭のやり取りをしてはいけない、などという明示的な決まりを作るべきだと思います。そうしないとその時々の情勢次第で政治家はいくらでも逮捕されますよ」 この話の流れで、記者は自民党の裏金問題についての見解を尋ねようと考えていたが、「自ら関わっていないので分かりません」という理由から話は聞けなかった。