【プレステ30周年】プラットフォームビジネスを統括する西野秀明CEOにインタビュー。携帯機の可能性や新ハードへの取り組みなどプレステの未来はどうなる?
1994年12月3日の初代プレイステーション発売から丸30年。その節目にあたり、ファミ通ドットコムでは、ソニー・インタラクティブエンタテインメントのビジネスの舵をとるふたりのCEOへのインタビューを実施した。 【記事の画像(14枚)を見る】 本稿では、プラットフォームビジネスグループ CEOを務める西野秀明氏へのインタビューをお届けする。さまざまなプロジェクトや商品の企画・統括を歴任してきた西野氏による成功の歴史の分析や今後の展望など、読み応えたっぷりの内容となっているので、ぜひじっくりご覧いただきたい。 なお、もうひとりのCEOで、スタジオビジネスグループを統括するハーマン・ハルスト氏へのインタビューは以下で掲載している。合わせてチェックしてほしい。 ※このインタビューは2024年11月上旬に実施したものです。 西野秀明(にしの ひであき): ソニー・インタラクティブエンタテインメント プラットフォームビジネスグループ CEO。2000年にソニー入社、2006年にSCEへ。その後米国でPSNを拡大するための事業などを手掛けた後、PS4、PS5の商品企画統括などを歴任し、2024年6月1日より現職。 我々の存在はゲームプレイがよりよくなるための黒子のようなものだと思っています ――うかがいたいことはたくさんありますが、まずは西野さんのこれまでの経歴と、現在統括されているビジネス領域について教えてください。: 西野: 私は2006年に、当時のソニー・コンピュータエンタテインメント(以下、SCE)にやって参りました。そこではまずPS3向けの 『Folding@home』という、がんの治癒などに貢献するためにタンパク質を解析するプロジェクトや、PS3とPSPで途中から入ったインターネット検索の機能など、ノンゲーム分野を担当していました。 『Folding@home』。スタンフォード大学の分散コンピューティングプロジェクト“Folding@home”の一端末として、バックググラウンドでプレイステーション3の計算機能を使い、パーキンソン病やアルツハイマー病など、さまざまな疾病の原因究明に繋がるたんぱく質解析に協力することができた。 ――『Folding@home』ですか。懐かしい! とても印象深いプロジェクトでしたね。: 西野: あれはアメリカのチームが開発を担当していたのですが、商品企画は私が担当しました。その後、2010年からアメリカに行ってプレイステーションネットワーク(以下、PSN)を拡大するための仕事や、ミュージックやビデオのサービスなどをソニー機器へ展開する仕事なども手掛けていました。 それから1年ほどソニー本社の仕事を挟んで、2013年、まさにPS4が出る年の4月にプレイステーションのハードウェアの商品企画を統括する立場で戻ってきました。PS4の制作に関しては、少し関わったくらいなのですが、PS4 ProやPS VRに関しては、商品企画の統括として企画から発売までを経験してきています。 その後、PS4の世代はハードウェアの商品企画に加え、PlayStation Plusなどのネットワークサービスを含むPSN全体の拡大の指揮もとるようになり、PS5世代はハードウェア、システムソフトウェア、ネットワークエンジニアリングの技術領域も含めて、開発全体を統括するようになりました。 そして2024年6月からは、販売、マーケティング、パブリッシャーさん担当の業務も加わることで、ファーストパーティーゲームビジネス以外の領域を管轄する、プレイステーションのプラットフォームビジネスのCEOに就任しました。……日本とアメリカを行き来してさまざまな仕事をしているうちに、もう18年も経っていたんですね(笑)。 ――改めて、プレイステーションが30周年という節目の年を迎えたこと、そしてそのあいだゲームファンに支持され続けてきたことについて、率直なご感想をお聞かせください。 西野: まずはプレイヤー、クリエイターの皆さんに感謝を申し上げたいです。我々の存在は、けっきょくのところクリエイターさんのコンテンツや、プレイヤーの皆さんのゲームプレイがよりよくなるための黒子のようなものだと思っています。 思い返せば1994年は私もまだ入社していませんでしたし、インターネットもまだなかったと言っていいような時代でした。それが30年経って、もはやスマホがないと生きていけないような世の中になりました。ライフスタイルも含めて大きく変わってきた中でも、ゲームファンの皆さんに30年間ゲームを遊び続けてもらえたこと、そしてわれわれがその時間を提供し続けてこられたことはとてもうれしいですね。 時代に合わせた体制の変化 ──それだけ支持され続けてきた理由は何だったのでしょうか? 西野: ハードウェア面では、SoC(System on a Chip。メインのチップセット)を、当初の自社設計から外部のパートナーさんの設計をベースに共同で作る体制にするなど、時代の変化に対応していったことが大きかったと考えています。 ──初代PSのころと現在とでは、ハード開発の考えかたがかなり変化しているんですね。 西野: そうですね。初代PSとPS2では、SoCを自社でアーキテクチャから設計していました。PS3でもIBMさんと東芝さんと3社で“Cell(セル)”というプロセッサーを作っておりましたので、自社設計と言っていいと思います。PS4とPS5に関しては、AMDさんの技術がベースにあり、それをプレイステーション向けにカスタマイズするというアプローチを取っています。ゲーム制作の手法や規模の変化に合わせて、よりゲームが作りやすい設計に進化しています。 ――ハードは時代に合わせて最先端のもので、かつゲームに最適なものを求めてきたということですね。一方のソフトウェア、ゲームタイトルの面ではいかがでしょうか。 西野: ゲームタイトルでは、30年間のいちばんの変化はオンラインマルチプレイのタイトルの発展ではないでしょうか。従来のシングルプレイヤー向けのすばらしいグラフィック、サウンドを備えた映画のようなタイトルは引き続き重要でありつつ、オンラインマルチプレイのゲームがどんどん新しいプレイヤーを呼び込んでくれるので、それらが大きな変化をもたらしてくれたと感じています。 ──具体的には、どんなタイトルの存在が大きかったと思いますか? 西野: さまざまありますが、『フォートナイト』の存在は大きかったと思います。それからスポーツゲームの数々も、全世界ベースで見ると大きな市場になってくれました。 『フォートナイト』 ──やはりそこは“皆で遊べる”、“人のつながり”でハードが売れていく、ということになるのでしょうか。: 西野: PS4の時代もそうでしたが、購入理由を調べてみると、まずは“価格”、そのつぎに“友人がプレイステーションを持っていたから”ということが上位に挙がっていました。やはりネットワークでつながっているということは大きいと思います。友だちが持っていたら自分も欲しくなるというのもあるでしょうね。 ──たしかに“友だちが持っている”というのはわかりやすいですよね。そのほかにプレイステーションが支持される理由として、ハード、ソフト面以外の要素はいかがでしょうか? 西野: PSNはとてつもない数のお客様にサービスを利用していただいていますので、重要な要素のひとつです。 ――PSNと言えば、PlayStation Plus(以下、PS Plus)のサービスも、フリープレイなど年を経るごとに注目が集まったように思います。 西野: PS Plusは、2010年から2013年までの形があり、2013年から2022年までもひとつの形、そして2022年からは3つのTier(プラン)を用意する形へと変遷してきました。進化と言いますか、お客さまのニーズに応じて変えていっています。 ――利用者もどんどん増加していきました。: 西野: その裏側の話ですが、2006年当時はまだAWS(アマゾンウェブサービス)もGoogle Cloudもありませんでした。そのためいわゆる“オンプレミス(on-premises、システムの稼働やインフラの構築に必要となるサーバーやネットワーク機器、あるいはソフトウェアなどを自社で保有し運用するシステムの利用形態)”の状態で、自前でデータセンターを持っていました。 とくに年末商戦でたくさんのハードやソフトが売れたすぐ後には大量のトラフィックが来ることがわかっていたので、そのたびにサーバーを購入して、それらを置く場所を確保して……と年単位でくり返していました。 現在はクラウドサービスがあるのでその必要はなくなりましたが、技術的には個々のコンポーネントがオートスケール(サーバー負荷などのトリガーに応じて、自動的にクラウドサーバーの台数を増減させる機能)に対応できるように作らないといけないんです。現状、大量のトラフィックが来ても耐えられるエンジニアリングとオペレーションはできているかなと思います。 「皆で集まってワイワイできるプレイステーションはいいなあ」 ――そのほか、個人的に思い入れの深い技術や商品などはありますか?: 西野: 私は自分で 『Folding@home』を企画していた関係で、このサービスを提供していた『Life with PlayStation』というアプリケーションも担当していたんです。地球をモチーフにしたマップに、世界に広がるPS3ユーザーが光の点で表示されて、皆がつながっていて、皆といっしょに遊んでいることが実感できるというものですね。 PS3で提供されていた『Life with PlayStation』。『Folding@home』のほか、世界のニュースや天気情報、ライブカメラ画像などの各種コンテンツを提供していた。2012年11月にサービス終了。 ――初代PSのころから、時代をリードする技術が採用されていましたよね。: 西野: 当時はソニーに“12音解析”という技術がありまして、曲を分析して分類し、ムードに合わせたBGMを流したりできたのですが、そんな機能を使って、ゲームをしないときにもPS3を起動してボーッとできるのがよかったです。 もうひとつはVRです。VRに関してはすごく長いあいだ研究開発をしてから商品化したものです。そこから学んだことも多くて、いかに酔わないように作るか、初代PS VRでは何本もケーブルがあったものをPS VR2ではいかにして1本にまとめるかなど、いろいろなことをさせていただいたので、そのあたりは思い入れがあります。 ──西野さん個人で思い出に残っているエピソードはありますか? 西野: 私がSCEにやってきた当時、『I.Q』が好きだったのですが、当時の広報部長が「私は絶対 『I.Q』では負けない」と言ってきまして。それで対戦してみたら、見事に全負けしました(笑)。 当時はPS3の時代だったので、インターネットの最新技術や高性能コンピューターに憧れつつSCEに来たのですが、意外とホンワカするというか、皆で集まってワイワイできる場を作ってくれているのを見て、「プレイステーションはいいなあ」と感じたことを覚えています。 1997年にプレイステーションで発売されたパズルゲーム『I.Q インテリジェントキューブ』。 ──素敵な思い出ですね(笑)。ちなみに初代PSが発売された1994年ごろは、西野さんはゲームで遊ばれていましたか?: 西野: 私は初代PSもPS2も持っていまして、ユーザーとして遊んでいました。いまでも実家の押し入れに眠っていますよ。まだ動いてくれるかはわかりませんが(笑)。PSPが発売された年末に渋谷の家電量販店さんに行ったら「緊急入荷しました!」と出ていて、その場で衝動買いした記憶もあります。それらも併せて、歴代のPSハードは全部遊んでいますね。 ──ほかに、とくに遊んだゲームはありますか? 西野: オンラインの『ファイナルファンタジーXI』などもけっこう長くハマりました。PS2にPlayStation BB Unitをつないで。自分で遊ぶまでは「みんな、なんで同じところを何度もグルグル回っているんだろう?」と思ったものですが、いざやってみると、そのおもしろさが理解できました(笑)。 2002年にプレイステーション2で発売、サービス開始された『ファイナルファンタジーXI』。 PS5が好調を維持している理由とは ──つぎに、PS5の現状についてもどのように評価されているか教えてください。: 西野: PS5についてはご好評をいただいていると認識しています。ユーザーさんのプレイ状況を分析したデータを見ますと、PS5を購入してくださった方のプレイ時間は、PS4よりも長くなっているんですね。また、PS Storeもより多く利用してくださっていることもわかっています。つまり、いろいろなゲームを、より長く遊んでいただけているということですね。 またハードの全世界での普及スピードについては、現在のところPS4に近い水準を維持しています。先日の決算で発表した通り、PS5の累計販売台数は2024年9月末時点で6500万台を超えています。 ペースという点では、日本での普及も国外と変わらない推移をしています。東京ゲームショウ2024でもいろいろ出展されていたように、PS5のゲームもこれからどんどん増えてきますので、ハードの売上もさらに加速させていきたいと考えています。 ──コロナ禍で生産体制にも影響があり、難しいスタートになったPS5ですが、PS4に近い水準で推移できているわけですね。 西野: PS5の発売当初には供給が足らずご迷惑をおかけしました。PS4の成功を受けて、PS5の企画を立ち上げるときには、まず「PS4を超えたいね」という思いがありました。ですので、ここからどうやってPS4を追い抜くかを考えていくことになると思います。 ──ユーザーから好評を得ていることについては、やはりコンテンツの影響が大きいのでしょうか? 西野: これはパートナーさんとのイベントでもよく申し上げているのですが、コンテンツがないハードは誰も買ってくれませんので、ひとえにコンテンツのおかげだと思います。 もうひとつ、PS4とPS3の切り換えのタイミングでは、PS4にはPS3との互換性を持たせませんでした。一方で今回、PS5はPS4との互換性がありますので、すでにお持ちのタイトルもそうですし、マルチプラットフォームのタイトルもそうですが、お客さまにはより多くのコンテンツを楽しんでいただけるようになっていることも、好評の理由かと思います。 ユーザーだけでなくクリエイターにも負担を掛けないプラットフォームへ ――そしてPS5の発売から4年、PS5 Proが発売されました。このハードはどのような狙いのもとに開発、発売されたのでしょうか。: 西野: じつはPS5 Proは、PS5が発売される少し前、2020年ごろから開発を始めていました。ですから、だいぶ時間を掛けているんです。2024年ごろにはこういった技術が使えるだろうな、と見越して開発を進めてきた商品で、PS5でありながらよりハイスペックをお求めになるお客さま向けに用意したものですね。 ――魅力的なハードではありますが、どうしても世間の話題としては“お金”が挙がることが多いように思われます。今回の、そして今後のターゲットや価格設定についてはどのようにお考えですか? 西野: 過去の環境と現在の環境はあらゆる面で異なっているので、我々にできるのは、現時点で可能な限りのスペックを、自分たちにできる限りのコストダウンを施した価格でご提供するということだけです。PS5のスペックは決まっているものがあるので、その中でいかにコストを最小化し、実現したいゲーム体験をご提供できるか、ということに尽きるでしょう。 一方で、おっしゃる通り、さまざまな層にまでお客さまを増やそうとするなら、価格帯についても違うものを考えなければならないということは認識しています。 ――具体的な施策は考えていますか? 西野: ひとつの例として、PlayStation Portal リモートプレーヤー(以下、PS Portal)で、直接クラウドストリーミングによるゲームプレイができるというベータサービスを始めます。PS5ほどの値段はしないPS Portalで、Wi-Fiの環境さえきちっと整えられれば、PS Plusを通じてPS5のゲームが遊べるというものですね。 ただこれは、いろいろな環境要素が揃わないと利用できませんし、まだまだそれがメインストリームだとは思ってはいません。お客さまのチョイスとして選択肢を増やし、できることであれば試していただきたい、ということで始める予定です。 ※編集部注:2024年11月20日よりベータサービスが開始 西野: また、PS5の価格帯ではご検討いただけないというお客さまもいらっしゃいますので、たとえば売りかたを変えるなど、いろいろな方法を検討していきたいと思います。 ――プレイステーション全体で、PS5 Proのような高画質、高フレームレートで楽しめるようなハードもあり、PS Portalなど手軽な手段もあり、と広いレンジでゲームファンに訴求していくということでしょうか。: 西野: そうですね。やはりお客さまの用途やスタイルに応じたものを、開発側でゲームを作り替えずに提供できるかどうかが焦点になってくると思います。PS Portalもそうなのですが、リモートプレイというものは、クリエイターさんがコードに手を入れる必要がないんですよね。我々のクラウドゲーミングも、クリエイターさんが改めて工数をかけなくていい。 これが、たとえば「画面が小さいから対応してください」とか、「メモリが少ないから何とかしてください」と言い始めると、いろいろやっていただかなくてはいけなくなるんです。PS5 Proはスペックが上がるものなので問題なく扱っていただけると思いますが、もし制約のあるものを作ろうとした場合には、どこかでコードをいじらなければならなくなるなどの事態が発生すると思います。 そのときには、何か我々の中で吸収したり、お手数をかけずにクリエイターさんに対応していただけるような体制を整えることが大事だと思っています。とにかく、いかにゲームを作っていただきやすいプラットフォームにしていくかを考えていますね。 ――話は戻って、PS5 ProはPS4 Proと比べるとオリジナル版発売からのスパンが長いように感じるのですが、その理由はどのようなところにあるのでしょうか?(※PS4は2013年発売→PS4 Pro2016年発売。PS5は2020年発売→PS5 Pro2024年発売) 西野: AMDさんとやらせていただく中で、どういった技術がいつごろにできるようになるだろうと逆算してから開発を行っていたことが最大の理由です。PS5 Proの場合、3年ではPS5 Proの役割が最大限に発揮できない、意味がある形で作れないと判断し、4年の期間を注ぎ込みました。 ――狙ったのかどうかはわからないのですが、PS5 Proのリリースと極めて近いタイミングで『モンスターハンター ワイルズ』のオープンβテストが実施されたことで、うまくニーズが高まっていますよね。 西野: 本当は狙っていたと言ったほうがいいのかもしれませんが……正直「ラッキーだな」と思いました(笑)。 『モンスターハンターワイルズ』の先行オープンベータテストは、2024年10月29日12時から10月31日11時59分まで、PS5にてPlayStation Plus加入者を対象に実施。 PlayStation Plus加入者以外となるPS5、Xbox Series X|S、PC(Steam)に向けてのオープンベータテストは、11月1日12時から11月4日11時59分まで実施された。 ──周辺機器については、PS VR2、PS Portalと、PS5をコアとしたユニークな周辺機器を発売されていますね。これらの販売状況や反響についてどのように分析されていますか?: 西野: SIEとしては、新しい技術やプレイスタイルに対しては、積極的にイノベーションとして取り組んでいきたいと考えています。VRについては、2016年に初期モデルをリリースしましたが、コンテンツがどんどん進化していて、どうやって酔いを起こさないようにするか、VRで見せるにはこういうものがいいんじゃないかなど、開発者の方々に技術を使っていただけて、こちらからも技術のご提案ができているというのは、うれしいことだと思っています。 ――今後さらなる画期的なタイトルに期待したいですね。: 西野: 一方でPS Portalは、テレビの前でなくてもPS5を楽しめるというものですね。 より自由な形でゲームを楽しめるようになることで、PS Portalを使い始めたユーザーは、PS5でのエンゲージメントが増加する傾向もみられています。 また、PS Portalでのプレイのピークタイムは、PS4やPS5よりも約1時間遅くなっています。つまりテレビでPS5を遊んでから、どこかの部屋に行って遊んでくださっているのかな、と。こういうデータを見ると、ゲームの新しいプレイスタイルを広げることができているのかな、ということは感じられますね。 このように新しい体験を提案して、ユーザーさんに使っていただいて、フィードバックをいただいて……というのをくり返しながら、より長く、深く遊んでいただけるものを追求していきたいと思っています。 ――それらも含めて、以前はPSPやPS Vitaなどの携帯型もありましたが、PS5以外に単独のハードウェアを展開するのではなく、基本的にはPS5を軸にして展開していくということなのでしょうか。 西野: 先ほどお話ししたことと絡むのですが、複数のプラットフォームを同時に運用するということは、SIEにとってもクリエイターさんにとっても負担になった時期があったと思うんです。その後技術の進化にともない、クリエイターさんにご負担をかけない形でさまざまなプレイスタイルを提供できる、という形に近づいてきたのかなと感じています。 クラウドゲーミングやPS Portalのリモートプレイなどではご負担をいただかないようにしているのですが、仮に違う形になったとしても、我々のほうでクリエイターさんにご迷惑を掛けないように、よりコンテンツをスムーズにプラットフォームに提供していただけるようにサポートしていきます。これは商品の形態と言うよりも、ひとつの思想として、規律として大事にしていきたいと思っています。 30周年記念モデルへのこだわりは…… ――2024年には5年ぶりの東京ゲームショウの出展がありました。日本のユーザーにとっては驚きもあり、うれしいニュースとなりましたが、5年ぶりの出展の意図と効果をお教えください。: 西野: 今年は、30周年ということもあって出展させていただこうということになりました。今年はとくにたくさんのお客さんにお越しいただいて、土日は足の踏み場もないほどで、整理券を取るためのダッシュのすごさを私自身も現地で目の当たりにしたりしましたけれども(笑)。より多くのお客さまに見ていただけてよかったなと思っています。やはりライブイベントの熱量というのはすごいものがありますね。 ――そのほか、PS30周年モデルの発売など日本のユーザーにとってもうれしい展開が以前より増えてきたように感じます。それは西野さんがCEOに就いたことが少なからず影響しているのでしょうか?: 西野: そうだったらいいんですが(笑)。正直なところを申し上げますと、商品の仕込みは何年も掛かりますので……私がCEOになる前から作っていたものがこのタイミングで出てきたということです。30周年モデルに関しては、去年「30周年だからやるよね」となって企画を進めたのですが、PS4のときと違うのは、全ラインアップにわたって30周年モデルを作ったことですね。並べると圧巻で、より満足度が高いものになったと思います。 ――本体だけでなく、DualSenseでもDualSense Edgeでも、PS Portalでも作ります、全部やります、というのはなかなかない展開ですよね。やはり30周年で特別だからやろう、ということになったのでしょうか。: 西野: PS5 Proのセットを作るにあたって、作ってはみたものの、PS5 Proで遊ぶ人しか買えないのはもったいないね、という話になったんですよ。 じつは最初は、充電台を同梱する予定もありませんでした。充電台も、特別色に塗って作るとなるとたいへんですから。でも、PS5 ProはDualSenseとDualSense Edge、ふたつもコントローラーが入っている。だったら充電台もほしいよね、それならやっぱり塗りましょう……ということになりました。さらに話はそこで終わらず、充電台も30周年仕様で作るのなら、コントローラーだけ欲しいという人もいるよね、となって。それで個別の商品も作ったという次第です。 ――フルセットは買えないけど、コントローラーだけでも欲しい! という人は多そうですね。そうした声も拾ってもらえているのはうれしいです。 西野: そこは営業も企画も含めて、多くの声を集めて決定しました。紆余曲折というか、やっているあいだに話が広がっていった感じですね。 ――近年ではゲームビジネスは東南アジアでも大きな広がりを見せており、さらなるグローバル化が進んでいますが、そんな中でプレイステーションの世界での展開と、日本市場の現状と今後の展望について、お考えをお聞かせください。 西野: 30周年にあたって、ゲームを手に取っていただける全体の人数も、日本に留まらず増えていると思います。それは喜ばしいことなのですが、一方で、ゲームというコンテンツに対する接しかたも多様化している印象があります。モバイルゲームが流行っている地域があれば、PCゲームが流行っている地域もあり、まだまだ家庭用ゲームが隆盛という地域もあり、地域差が大きいですね。 単一の国ということで見ると、日本はプレイステーションの市場としてはTOP3のひとつです。皆さんのライフスタイルを見て、その中でどう溶け込ませていくかということを考えながら、アジアや日本の市場のフィットを考えていきたいと議論を進めています。 ――グローバルの観点では以前からよく言われるように、日本の市場は、ほかの国や地域と比べて特殊性が強いのでしょうか? 西野: モバイルゲームがものすごく大きい市場ではありますね。そこは海外と比較しても顕著だと思います。PCが増えるスピードも日本は速いですね。どの国もユニークなのですが、日本にはそういった傾向があります。 ――その中でPS5をどのように売っていくかが課題ということですね。 西野: そうですね。先ほど申し上げたように、ゲーム機で買われるわけではなく、どんなゲームが遊びたいかでご購入いただくケースが多いので、とにかくコンテンツが出てくることが大事だと考えています。 ──発売から10年以上となるPS4がいまだ現役で、ハードウェアのライフサイクルは長くなっているように思えますが、PS5の今後についてはどのような展望を描いておられますか? 西野: PS5についても、PS4と同様に長くなると考えています。ただ、長くなるということで、新しい技術を取り込んだつぎの商品を出すタイミングを遅らせてもいいかというと、それはちょっと違うと思います。新しいハードを投入するタイミングは、技術が進化する時間軸と、それを我々が実装できる時間軸とも絡んでくるものです。ですので、いま稼働しているものも遊んでいただきながら、新しいものもご提供して、トータルで広がっていくことが大事だと思います。 ――なるほど。PS5を使いつつ、新しいハードも使う、というようになるのかもしれないわけですね。 西野: たとえばPS4は途中から自動生産も進んでいまして、ハードウェアの品質が高いんですよね。だから長くお使いいただけるというのはあります。もちろん、PS5は最初から自動生産です。これからは、長く使えるものは長く使っていただいて、新しい技術は新しい技術で持ってくる、という合わせ技で広げていきたいと思っています。 ――PS5 Proが2020年ごろから仕込まれていたことを考えると、次世代機はもう仕込まれているんだろうなと想像できるのですが、どんどん先を見据えて進めていらっしゃるのでしょうか。 西野: 商品は技術と価格、時期のバランスでお出しするものだと考えています。我々が思うスポットにハマるのはいつかというのは、つねに検討しているところではあります。 ──未来について、「次世代ゲーム機はハードウェアではなく、すべてクラウドになる」といった予測をされることがあります。プレイステーションは、これからも家庭用ゲーム機を中心として展開されるのでしょうか? それとも大きな構造転換がありうるとお考えですか? 西野: 今日現在は、数多くのPS4のゲームを遊んでいただいておりますし、PS5のゲームもどんどん増えていきつつある状態です。これが明日急にガラッと変わることは考えられないので、しばらくは家庭用ゲーム機が我々のビジネスの中心であることは間違いないと思います。 ただ、PCなど違ったスタイルのものも増えてきていますので、PSNも含めた形で、どうやって全体のプレイステーションユーザーを増やしていくか、考えを進めている段階ですね。これを言うと誤解されるかもしれませんが、PS Portalでクラウドゲーミングができて、PS5のゲームが動いているとなると、もうゲームはクラウドの時代に突入したと考える人もいるかもしれません。しかし、手もとにコントローラーと画面は必要ですし、我々はまだまだハードウェアがなくなることはないと考えています。 ── 最後に、ゲームファンに向けてメッセージをお願いします。 西野: まずは東京ゲームショウ2024に足を運んでいただいたファンの皆さんに感謝を申し上げます。直接来場はされなかった方も、PS5向けにたくさんのコンテンツが出てきますので、ぜひPS5でゲームを遊ぶことを検討していただきたいなと思います。今後もぜひプレイステーションとコンテンツにご期待ください。