「売り場は効率より装飾」 百貨店バイヤーが語る若者の集客法
若者の百貨店離れが進む中、20歳前後の女性から支持を集めるデパートの催事がある。伊勢丹新宿店(東京都新宿区)が年4回開く「acutegrrrl(アキュートガール)」だ。同店によると、売上高、来場者数ともに右肩上がりだという。どんな仕掛けをしているのか。 ◇5日間で1億円規模 「見てたら全部欲しくなるくらいどストライクなものにあふれてる」 「むちゃかわ空間だった」 「びっくりするくらい全方位可愛いの集合地…」 X(ツイッター)には、来場者とみられる女性たちがそんな感想を投稿している。 アキュートガールには、「かわいくて(cute)、鋭くて(acute)、行動的な(act)女の子」という意味が込められている。 ターゲットは10代後半~20代前半。ピンクや白などを基調とした売り場には、ハートやリボンをモチーフとする洋服やバッグ、雑貨などが並ぶ。1万円を切る洋服もあり、婦人服売り場の他店舗に比べて価格も抑えられている。 アキュートガールは元々、複数のブランドのセレクト商品を集めた常設の売り場だった。2019年からのフロア再編で一度は廃止されたが、復活を求める声が多数寄せられ、20年に年4回(1回あたり約1週間)の催事とEC(電子商取引)で再開することになった。 売り上げは公表していないが、大きく展開するときは5日間で1億円規模とされる。バイヤーの樽見顕斗さん(30)は「販売促進を目的とした催事にしたことで、より集客ができるようになった」と話す。 ◇商品選定は開催ギリギリまで 催事で扱うブランド数は70~80で、毎回、半数程度を入れ替えている。通常の服飾催事ではバイヤーが展示会などで商品の選定や買い付けをすることが多いが、アキュートガールではSNS(ネット交流サービス)でのコメントなどからヒントを探り、各ブランドに個別にアプローチしている。 樽見さんは「有名なブランドやインフルエンサーをただ探すのではなく、まずアキュートガールに合ったペルソナ(具体的な人物像)を置き、それに近い人のSNSアカウントのフォロー欄などを見たりしています」と語る。 中心となって企画をする樽見さんのチームには20代が多く、ターゲット層とも重なるため、友人・知人などの生の声も参考にしているという。 ブランドや商品の選定期間は、他の服飾催事より短い。 通常は開催の半年前から3カ月前の間で選ぶことが多いが、アキュートガールでは1カ月前に選定するブランドが多い。若者は興味関心の移り変わりが早く、開催2週間前まで協議を続けることもある。 また、気軽に写真を撮影してSNSに投稿する若者にとって、売り場の「世界観」は来店意欲をかき立てる重要な要素となる。 「ターゲット層は、物のクオリティーより空間の世界観を重視します。坪単位の効率を考えた売り方より、壁面、床面などに装飾を入れ、売り場全体に世界観を出すことをとても意識しています」 特定のブランドを目当てにした客でも、世界観が統一された売り場を回ることで新たなブランドのファンになることもあり、相乗効果が期待できるという。 ◇各ブランドから直接ファンに発信 店側が催事の存在を周知するために使うのもやはりSNSだ。特に出店する各ブランドによる発信を重視している。 「70~80の各ブランドから催事に出店していることを周知してもらったほうがインパクトが大きく、それぞれのブランドのファンに届きやすい」 今後のアキュートガールはどんな展開をしていくのか。 樽見さんは「催事では一つのブランドが占める面積が狭く、場の限界を感じている。他店舗でのプロモーション開催も一つの展望としてはいいかと思うし、ECだけで扱うブランドの導入も検討している。催事をしながら場にとらわれないプロモーションができれば、コミュニティーが広がっていくのではないでしょうか」と話している。 次回の催事は30日~11月5日、伊勢丹新宿店の2階と6階で開かれる。【松山文音】