「その才能を活かしきれていたか?」天才ボクサーと歩むトレーナーの自問自答…内藤律樹32歳はなぜオーストラリアから再び“世界”を目指すのか
「……やめます。もう肩がまったく動きません」。東洋太平洋のタイトルを失い、絶望のうちに引退を口にした「リッキー」こと内藤律樹。スパーリングパートナーとしてオーストラリアに発ったかつての天才ボクサーは、次第にボクシングへの情熱を取り戻し……。遠く南半球の地で再び世界を目指す32歳の「ラストサムライ」の奮闘に、トレーナー兼カメラマンの筆者が迫った。(全2回の2回目/前編へ) 【写真】「髪型がヤンチャそう!」理髪店で気合を入れる井上尚弥16歳と内藤律樹18歳の青春時代。生々しい傷跡や泣き崩れた王座陥落の日、オーストラリアでの現在も写真で見る(全40枚)
「オーストラリアで試合をやらないか」
2022年の夏にオーストラリアからスパーリングパートナーの依頼を受けたリッキーこと内藤律樹は、3週間のスパーリングを終えて帰国した。リッキーがパートナーを務めたスティーブ・スパークは、次期世界王者候補の1人として注目されていた無敗のサウスポー、モンタナ・ラブとのスーパーライト級12回戦に向けて、背格好が同じでフットワークを駆使して戦うサウスポーのリッキーを日本から呼び寄せたのだ。リッキーはモンタナ・ラブの動画を繰り返し観ながらスパーリングに臨んだ。 「強いですよ。勝っちゃうかもしれません。気が強くて、とにかくよく練習します」 リッキーがそう評したスティーブは、対戦相手の地元である米国オハイオ州クリーブランドに乗り込んで、無敗のホープからダウンを奪った。そして最後はリングロープから故意に投げ落とされたことによる反則勝ちというアップセットを起こしてしまう。 「またスパーリングパートナーをお願いしたい」 「オーストラリアで試合をやらないか」 スティーブが米国で無敗の世界ランカーから勝利を挙げたことは、スパーリングパートナーを務めたリッキーにとっても追い風になった。まだ自分もやれる――そう実感したに違いない。 2021年に東洋太平洋タイトルを失い、一度は引退も口にしたリッキーだったが、いつしかすっかりモチベーションを取り戻していた。 私もリッキーのオーストラリア行きに賛成だった。30歳を過ぎて、すでにキャリアの晩年に差し掛かろうとしている。父が経営する横浜のジムで練習を続けるにしても、この先はなにかを変えなければならない。環境を変えて、現地のジムに住み込みでボクシングに専念すれば、もう一度ハングリーになれるのではないか。 年が明けた2023年、リッキーは改めてオーストラリアへ出発した。
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