大根仁、Netflixと5年契約を結んだ背景と今後の展望 「複数の監督で作るやり方も探りたい」
5週連続でNetflix 週間グローバルTOP10入り(非英語/シリーズ)を果たし、日本におけるNetflix 週間TOP10(シリーズ)では6週間連続で1位を獲得するなど大反響を呼んでいるNetflixシリーズ『地面師たち』。そんな中、同作の監督・脚本を務めた大根仁がNetflixと5年にわたる独占契約を締結した。『モテキ』や『エルピス―希望、あるいは災い―』(カンテレ・フジテレビ系)などこれまで数々の映画やテレビドラマを手がけてきた大根は、なぜNetflixと5年契約を結んだのか。『地面師たち』の反響から今後の自身の展望までじっくりと話を聞いた。 【写真】Netflixと5年独占契約を締結した大根仁監督(複数あり) ――先日、Netflixと「5年独占契約」を結んだことが発表されましたが、これはいつ頃決まった話だったのでしょう? 大根仁(以下、大根):リリースにもあるように『地面師たち』の配信が始まって、ある程度ヒットしている状況が見えてきた頃だから、配信開始から2週間後ぐらいですかね。そのタイミングで、独占契約のお話をいただいて。もう即答で「よろしくお願いします!」って言って。 ――独占契約ということは、逆に言うと今後5年間は、Netflix以外の場所でドラマや映画を作ることができないということですが、そこに迷いはなかったんですか? 大根:なかったです(笑)。『地面師たち』を作りながら、もうしばらくNetflixでやってみたいなっていうのは思っていて。あと、5年というのは、多分みなさんが考えているよりも、ずっと短いんですよね。自分のことを振り返っても、5年前ってNHK大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』を作っていた頃だから、自分としては全然最近って感じだし、そのあと『共演NG』(テレビ東京系)をやって『エルピス―希望、あるいは災い―』(カンテレ・フジテレビ系)をやって、その間に『クレヨンしんちゃん』の映画(『しん次元! クレヨンしんちゃんTHE MOVIE』)を仕上げて、それで『地面師たち』なので。ホント、あっという間なんですよ。 ――リリースには「5年間で複数の作品を製作して、それをNetflixで独占配信する」とありますが、『地面師たち』のような大根さん発の企画ではないものが、そこに入ってくる可能性もあるのでしょうか? 大根:そうですね。そのあたりはフレキシブルに考えていただいているようで。「監督が企画する作品ももちろんウェルカムですし、Netflix側からも何かあったら提案させていただきます」という。まあ、現時点で具体的にお話できるものはひとつもないんですけど(笑)。 ――なるほど。今回の契約の背景には、やはり『地面師たち』の成功があると思うのですが、配信後のリアクションや盛り上がりについて、大根さんはどのように見ていたのでしょう? 大根:僕は「ヒットの法則」みたいなものはまったくわからないし、狙って作れるものでもないと思っていて。基本的には、「面白いものを作れば、みんな観てくれるでしょう」という発想なので、ある程度は観てもらえるだろうなとは思っていましたけど、ホント予想を超えた数の人たちに観てもらえたなっていう感覚はありました。僕の代表作というか、いちばん知られている過去の作品は、多分『モテキ』になると思うんですけど、『モテキ』のときの広がり方――あの作品も、特にDVDになってからは、相当いろんな人が観てくれたと思うんですけど、それとはまたちょっとケタが違うような感じがしていて。ご飯を食べに行っても、飲みに行っても、近くの席の知らない人たちが『地面師たち』の話をしているという。こないだ五反田のサウナに行ったら、常連のお爺さんたちが話していましたから。「観たか、地面師。あれはすげえな」って(笑)。 ――まあ、五反田は、もとになった地面師詐欺事件の舞台となった場所でもあるわけで(笑)。 大根:まあ、そういう意味では「地元」ではあるんですけど(笑)。そう、配信前にNetflixの髙橋信一プロデューサーと話していて、「芸人さんが、キャラクターで遊び始めてくれたらいいんですけどね」、「いやあ、そういうふうにはならないんじゃないの?」みたいなことを言っていたんですけど、ホントにそうなったっていうのもあって……。 ――チョコレートプラネットの『自慢師たち』のことでしょうか……。 大根:そうそう(笑)。他にもいろんな芸人さんたちがバラエティでネタにしてくれたり、YouTubeで勝手に宣伝してくれたり。しかも、みんな結構早かったじゃないですか。そこはホント、想定外だったというか、まったく狙ってなかったところで、こういうふうに盛り上がるんだっていう。 ――それこそネット上では、ピエール瀧さんの「もうええでしょ?」という台詞がミーム化したり、「ハリソン山中構文」というものもありました。 大根:そうですね。ハリソンの台詞なんて、脚本を書いているときは、「何を言ってるんだろうな、この人……」ぐらいの気持ちで書いていたんですけど(笑)。「もうええでしょ?」も、現場で瀧さんに「これ、ちょっと言い過ぎじゃない?」とか言われながら撮っていたので。ただ、やっぱり配信メディアというものが、特にコロナ禍以降、日本でも定着してきて……そういうタイミングの良さもあったのかなとは思っています。観てない人がすぐ観ることができるというか、たとえば飲み会とかでその話題が出たあと、家に帰ってすぐ観られるとか、ヘタをすれば帰りの電車の中で、スマホで観始めることもできるわけで。だからある種「観てないのヤバい」みたいな、そういうゾーンまでいったのかなっていう感じはしますよね。まあ、あんまりここで調子に乗った感じにならないようにはしているんですけど。 ――(笑)。 大根:ただ、これだけの結果を出したので、僭越ながら『地面師たち』という作品が、Netflixに良いインパクトを与えたというか、これを目当てに加入した人とか、これまで日本のNetflixのオリジナル作品は観てなかったけど観てみようとか、じゃあ次は『極悪女王』も観てみようとか、そういう良いループを作るきっかけにはなれたのかなという感じはしています。まあでも、すごく客観的に状況を見ていますよ。もういい歳ですし、ヒットしたからと言って、そんなに舞い上がるわけもなく。どっちかと言うと、もはや「分析」という段階に入っているかもしれないです。 ――大根さんは、『地面師たち』がヒットした理由は、どのあたりにあったと分析されているのでしょう? 大根:やっぱりまずは、誰かと話したくなるような作品だったというところでしょうね。その意味で、実際にあった事件がモデルになっているってところが、実はすごく大きかったように思っていて。その話題性というか、スキャンダラスな部分も含めて、多くの人の興味を引いたという。で、その事件をもとにした原作小説で、新庄耕先生が生み出したキャラクターを、映像的に膨らませて――まあ、結構誇張した部分もあるのですが(笑)、それを演じた役者たちが、すごく魅力的だったという。だから、物語が面白くてキャラクターに魅力があるという、シンプルにこの2つが大きかったように思います。 ――ちなみに、日本以外の国での反響は、どんな感じだったのでしょう? 大根:日本をはじめ、15の国や地域でトップ10入りした(※)という話は聞いていて。香港とか台湾、あと韓国とかタイとか、アジア地域では結構観てもらえたようです。あと、南米のペルーとかでも、なぜか結構観られているようで……。変わったところでは、アフリカのケニアとか? そうなると、もう何がどうなっているのか、まったく想像がつかないですけど。 ――それもまた想定外というか、本当に世界中の人々に観られているんですね。 大根:そうですね。やっぱり、地上波のテレビドラマって、すごくドメスティックなものだし、じゃあ映画がグローバルかっていうと、映画祭に出品するような作品はともかく、いわゆるエンターテインメント作品は、なかなかそうはなりづらかったりするじゃないですか。そういう中で、Netflixで作品を送り出すと、本当に世界中の国と地域で観られるんだなっていう。それは自分にとっては新しい体験だったし、そこには新鮮な驚きがありました。 ――ある種、視界がバーッと開けたような? 大根:そうですね。そう、こないだ山本耕史さんの『レント』という舞台を観に行ったんです。あの舞台って、山本さんとクリスタル・ケイさん以外は、全員外国人のキャストなんですよね。で、そのために来日しているアメリカ人キャストたちがみんな『地面師たち』を観ているらしくて。まだ最後まで観てないみたいで、「コウジは、最後どうなるんだ?」みたいなことをしきりに聞かれるって言ってました(笑)。 ――(笑)。 大根:そうやって、自分たちがすごくドメスティックだと思っているもの――半径10キロ以内で起きているような「この話、面白いんだよ」っていうものが、結果としていろんな国とか地域の人に届くというのは、非常に理想的な形ですよね。世界中で配信されるということは、もちろん事前に聞いていましたけど、それを意識して作ったのかっていうと、まったくそんなことはないので。むしろ、「印鑑証明」とか、他の言語でどう訳すんだろうっていう(笑)。 ――確かに。とはいえ、『地面師たち』の小説を脚色する際に、歌舞伎町のホストであったり、外国の人が興味を持つであろう日本の要素を加えたみたいな話をされていて……。 大根:あ、そんなこと言いましたっけ? まあ、そこまで明確に意識していたわけではないんですけど、今、インバウンドでにぎわっているような場所は、外国の視聴者も見たいのかなっていう。それぐらいの感じというか、いろんな国で作られているNetflix作品を観ても、ドメスティックというか、ローカルであればあるほど面白いじゃないですか。まあ、グローバルをすごく意識して作っている人たちもきっといるんでしょうけど、実際はそんなにいないような気がしていて……。『イカゲーム』にしたって、そこまで「世界中で当てるぞ!」みたいな気負いはなかったと思うんですよね。 ――まあ、そうでしょうね。 大根:だからやっぱり、先ほども言ったように、コロナ禍というのが世界同時多発的に起きたのが、やっぱりすごく大きかったんだと思います。みんなヒマになったというか、それで自分の国の作品以外も観てみようかっていうふうになった。そこで人種的なところも含めて、外国の作品に対する抵抗がある程度なくなったというか。『地面師たち』もグローバル展開なので、いろんな国の字幕と、いろんな国の吹替版を作ってもらったんですけど、そうやって自分の作品を観ることも、僕は初めての経験だったので、それはそれですごく面白かったです。特に吹替版が面白かった。ドイツ語、いいなあって思ったり……。 ――各キャラクターの「声」を、各国の吹替版で聴き比べてみたり? 大根:そうそう(笑)。どの国の声優さんもしっかり特徴を掴んでくれていて嬉しかったです。吹き替えで観てると音楽や音響がすごく際立って耳に入ってくるんですよね。あと日本は結構特殊な部類に入ると思いますけど、いわゆる声優文化みたいなものが、それほどない国だってあるわけで。中国語版はあったけど、韓国語の吹替版はなくて、「なるほど、韓国は字幕文化の国なんだ」って思ったり。