精神科病院で隔離死の疑い、表面化 提訴や刑事告発相次ぐ
精神科病院に入院した患者が隔離された末に死亡したことを受け、病院側の過失を問い、隔離が死に至る危険な行為だとする訴えがこの8月に相次いだ。患者やその周囲に及ぶ危険を減らすためやむを得ず行う「隔離」が常態化すれば、心身に悪影響を与えるのは自明だが、死亡との因果関係を証明するのは困難とみられてきた。しかし、3年前の最高裁の判断を機に潮目は大きく変わった。 兵庫県の「明石土山病院」(明石市)で2年弱に及ぶ隔離の末、2021年4月に50歳で死亡した統合失調症の初田竹重さんの両親は今年8月26日、病院側の隔離と不注意が原因で死亡したとして同院に約5700万円の損害賠償を求めて神戸地裁に提訴した。 訴状によると死因は朝食のパンを喉に詰まらせた窒息死。初田さんは施錠された保護室にほぼ終日隔離され、食べ物を飲み込む力が弱まり、病院は誤えん防止のため食事中に見守るべきなのに怠ったことが死につながったとしている。 提訴後の会見で竹重さんの両親は「竹重の死は防げたのではないか」「今後、第二の竹重を出してはいけない」などと語った。 病院側は「一切コメントしない」と話している。 ■隔離+32日間も拘束 都内の精神科病院で4カ月にわたり隔離された末、23年6月に死亡した男性(50代)については8月30日、この男性を担当していた同院の元看護師が刑事告発した。 男性の死因は心筋梗塞。隔離が長引くにつれ血圧が上がり、拘禁反応が見られたにもかかわらず病院が適切な処置を怠ったこと、死亡日までの32日間は身体拘束をしたことが業務上過失致死に当たると訴えた。 告発者は「こうした事例は精神科病院ではよくある。私は隔離をやめるよう進言したが取り合ってもらえなかった」と語る。 ■最高裁の判断が後押し 隔離をめぐる法的措置が続いた背景には、石川県内の精神科病院で6日間身体拘束されて死亡した大畠一也さん(40歳)の民事訴訟で、拘束を違法と認めた21年10月の最高裁の判断がある。 精神医療に詳しい長谷川利夫杏林大教授は「隔離を争点とした訴訟はあまりなかったが、最高裁の判断は患者やその家族に『病院で行われていることを疑ってもいいのだ』と思わせる方向に後押しした」とみる。 ■「最小化」の行方は 最高裁の判断を重くみた厚生労働省の審議会は22年6月の審議報告に、隔離や拘束の最小化に向けて運用ルール(処遇基準告示)を見直すと明記。しかし、見直しの議論は非公開で行われ、今年8月末時点で告示は改正されていない。 告示を改正することで医師の裁量が広がり、むしろ隔離・拘束が増えるとする疑念も根強くある。今年5月に始まった厚労省の検討会は隔離・拘束の最小化を「前の検討会での宿題事項」とし、引き続き議論する予定だ。 長谷川教授は「隔離が心身に与える影響を重くみるべきで、精神科病院における実態把握が必要だ」と提唱している。