2024年実写映画最高の初動成績 『ラストマイル』への期待値とその結果
8月第4週の動員ランキングは、塚原あゆ子監督、野木亜紀子脚本、満島ひかり主演の『ラストマイル』がオープニング3日間で動員66万2000人、興収9億7800万円をあげて初登場1位となった。ホラー映画以外のメジャー配給の実写映画では久々のオリジナル脚本作品にして、TBS系列で2018年に放送されたドラマ『アンナチュラル』と2020年に放送されたドラマ『MIU404』、両作品とのシェアード・ユニバース作品であるという点ではテレビドラマの映画化的な側面も持つ本作。同時期に実写日本映画の有力作品がないことも追い風となって、大ヒットは間違いなしと予想されていたが、今回はその「大ヒット」の内実を探ってみたい。 【写真】『ラストマイル』涙を流す満島ひかり 拙著『映画興行分析』のページをめくれば一目でわかるように、近年、地上波系フランチャイズの映画作品で年間ベスト10に入ったのは2023年の『ミステリと言う勿れ』(興収48億円)と劇場版『TOKYO MER ~走る緊急救命室~』(興収45.3億円)、2021年の『マスカレード・ナイト』(興収38.1億円)、2020年の『今日から俺は!! 劇場版』(興収53.7億円)、『コンフィデンスマンJP プリンセス編』(興収38.4億円)といったところ。『ラストマイル』のオープニング3日間9億7800万円という初動成績は、それらすべての作品を上回るものだが、自分が比較対象としてここで挙げたいのは、同じ「夏休み映画」としてコロナ禍前の2018年に公開された『劇場版コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』(興収93億円)だ。同作のオープニング3日間の興収は15億4800万円。『ラストマイル』との初動興収比は158%となるので、その比率から算出すると『ラストマイル』の興収予測は約59億円ということになる。 『ラストマイル』の公開初日、配給の東宝は「興収50億円を目指せるスタートを切った」とのコメントを発表した。上記の比較をふまえると(「100億円」という数字が独り歩きしていた『キングダム 大将軍の帰還』とは対照的に)意外に控え目な予測にも思えるが、いずれにせよ、昨年の『ミステリと言う勿れ』や劇場版『TOKYO MER ~走る緊急救命室~』と同じ水準以上、年間ベスト10入り確実の最終興収が期待されていることになる。シェアード・ユニバース作品ということで、容易に続編やスピンオフの製作ができる企画ではないものの、ひとまずこの時点で既に大成功と言っていいだろう。 個人的には、『ラストマイル』は企画の周到さ、キャストの豪華さ、そして野木亜紀子脚本作品ファンの期待を裏切らない仕上がりという点で、『劇場版コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』のような、実写日本映画のマックス値レベルの大ヒットになるのではないかと予想していた。その違いが、「コロナ禍以前」と「コロナ禍以降」で実写日本映画のマックス値が減少してしまったからなのか、『ラストマイル』がいわゆるスター映画ではない(スター俳優はたくさん出演しているが、主演の満島ひかりは旧ジャニーズ事務所所属俳優のようなマネーメイキングスターではない)ことからなのか、今後の公開作品も含めてもう少し時間をかけて見極めていく必要があるだろう。
宇野維正