「肺に先天性障害」の中学生が生前に敢行した旅 修学旅行に付き添うツアーナースたち
ナースを頼りにしているのは、生徒たちばかりではない。引率する学校職員の体調に目を光らせるのもツアーナースの仕事だ。 「先生方は、修学旅行が終わるまでずっと緊張しっぱなしです。24時間体制で、生徒たちのことを見守らないといけません。そんなプレッシャーから体調を崩される方も、もちろんいらっしゃいます。幸い、これまで大事に至った例は私の参加したツアーにはありませんでしたが、私たち添乗看護師は職員の方々の体調にも目を光らせます」(馬場看護師)
■「スプラッシュマウンテン、乗れるかな」 中学校から、名古屋駅まではバス移動だ。生徒たちが、各クラスに分かれてバスに乗り込む。実際に、生徒たちの顔を見るのは、旅行の当日が初めてとなるケースがほとんどだ。生徒たちのリストを片手に、顔と名前を一致させる。 吉田貴明、文哉の双子の兄弟もきっちり確認できた。2人とも、体調に問題はなさそうだが、肺に障害のある兄の貴明は、荷物とは別に、小さなカートを引いてやってきた。中には酸素ボンベが入っている。
「このことについても、医師からの指示書がありました。貴明君は、激しい運動をしたり、緊張が高まったりすると、肺がうまく機能できずに、血中の酸素量が不足してしまうことがあります。そうした場合、酸素の吸入が必要になることもあるのです」(同前) バスに乗り込むと、旅行会社の添乗員が、バスの運転手や帯同するカメラマンなどを紹介する。このときに、ツアーナースとして、初めて自己紹介することになる。 「名前と経歴を少し紹介して、いつでも気軽に相談してくださいね。といった感じで挨拶をします。ここで長々と注意事項を並べても、誰も聞いてくれませんからね(笑)」(同前)
バスは無事、名古屋駅に到着し、生徒たちは新幹線で東京に向かう。 「スプラッシュマウンテン、乗れるかな」 貴明はまだ少し不安そうだ。 「大丈夫だよ、ちゃんと作戦を考えているからさ」 双子の弟・文哉は笑って答えた。 「作戦ってなんだよ」 貴明は不思議そうに弟の顔を覗き込んだ。 「ま、到着してからのお楽しみだ」(後編に続く)
末並 俊司 :ライター