<挑戦の春・’21センバツ専大松戸>第2部 支える仲間/下 目標失っても最後まで 後輩に見せた「本気」刺激に /千葉
「甲子園という目標がなくなった3年生が一生懸命野球をやっている姿はチームが強くなっていくきっかけになった」。1月29日、専大松戸のセンバツ出場が決まったこの日、石井詠己主将(2年)は野球部のグラウンドで報道陣にそう振り返った。 2020年5月、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、第102回全国高校野球選手権大会(夏の甲子園)の中止が決まった。甲子園出場への最後のチャンスを失った3年生部員の落胆は大きかった。気持ちがくじけてしまい、自主練習に励む部員が減った。 「何をしているんだ。もう野球やらなくていい」。6月中旬、小林一也コーチが一喝したのはそんな時だった。 3年生部員の18人全員が練習から外された。危機感を抱いた3年生は話し合った。「野球がしたい。その思いをコーチに伝えなければ」。グラウンドの隅で自主トレーニングに打ち込み、1、2年生の練習が始まるとその準備を手伝った。雨が降ると率先してグラウンドの整地に精を出した。3日後、練習への参加が認められた。「全員で野球ができることが大切。最後まで本気でやろう」。この日のミーティングで18人は誓い合った。 中止となった夏の甲子園の予選に代わる県の独自大会が、8月に開催された。専大松戸は惜しくも決勝で敗れたが、3年生中心のメンバーで準優勝を果たした。ベンチ入りしていた石井主将は、甲子園という目標を失ってもひたむきに野球に向き合う3年生の姿を間近で目に焼き付けた。 引退後も3年生は後輩の練習を手助けした。バッティング練習の投手役はその一つ。打席で構える1、2年生のために、約18メートル先からボールを投げる。投手経験のない3年生も、ストライクゾーンを狙ってスピードのある球を投げる。かなり体力を使うサポートだ。「昨日練習に行ったんだろ。今日は俺がいくよ」。3年生同士で声をかけ合い、練習に参加した。 精神面でも現役の部員を支える。「調子はどうだ。いいのか。そしたらホームランを打てるな」。1年生に対して優しく声をかけることもある。試合が近づくと、冗談を言って緊張をほぐしたりもする。 吉村京之助・前主将(3年)は、「3年生の姿はチームが強くなるきっかけになった」という石井主将の言葉を振り返り、こう語った。「そう言ってくれるのはうれしい。でも誰かのためでなく、センバツの舞台では自分たちのために野球をしてほしい。もちろん、いろいろな人への感謝を忘れずに」【長沼辰哉】