「あの男に見覚えがある」...当局に追われるジャーナリストが経験した、ヤバすぎる「身の危険」
「NO WAR 戦争をやめろ、プロパガンダを信じるな」...ウクライナ戦争勃発後モスクワの政府系テレビ局のニュース番組に乱入し、反戦ポスターを掲げたロシア人女性、マリーナ・オフシャンニコワ。その日を境に彼女はロシア当局に徹底的に追い回され、近親者を含む国内多数派からの糾弾の対象となり、危険と隣り合わせの中ジャーナリズムの戦いに身を投じることになった。 【写真】習近平の第一夫人「彭麗媛」(ポン・リーユアン)の美貌とファッション ロシアを代表するテレビ局のニュースディレクターとして何不自由ない生活を送っていた彼女が、人生の全てを投げ出して抗議行動に走った理由は一体何だったのか。 長年政府系メディアでプロパガンダに加担せざるを得なかったオフシャンニコワが目の当たりにしてきたロシアメディアの「リアル」と、決死の国外脱出へ至るその後の戦いを、『2022年のモスクワで、反戦を訴える』(マリーナ・オフシャンニコワ著)より抜粋してお届けする。 『2022年のモスクワで、反戦を訴える』連載第13回 『「命がけで」生放送でプーチンを批判したロシア人にウクライナ人が激怒した「意外過ぎる」ワケ』より続く
ウクライナ政府との接触
待つ日々は耐えがたくノロノロと過ぎていった。一週間もキシナウにいるが、ウクライナへは入れなかった。 「仲間がクリスティーナをチェックしました。何ら疑わしいところはありません」朝食の時、ピーターがわたしに言った。 「よかったわ。たったいまわたしのところにウクライナ高官の連絡先が送られてきたの!」 わたしは『ヴェルト』からのメッセージを読んで叫んだ。 「すぐに記者登録証を頼んでください」ピーターが言った。わたしはすぐにメッセージを書いた。
エージェントもあきれる能天気さ
「こんにちは! マリーナ・オフシャンニコワといいます。第一チャンネルの生放送で戦争反対の抗議をおこなった者です。現在ドイツの新聞『ヴェルト』で働いています。お願いしたいことがあります。いまキシナウに滞在していますが、どうしてもキーウに行きたいのです。 ブチャ、イルピン、ベルジャンスクでの戦争犯罪を記事にし、できればハルキウまで行きたいと思っています。ウクライナで実際、何が起きているのか、ロシア人はその真実を知らなければならないと思うのです。 ゼレンスキーのインタビューは撮れるでしょうか。戦争の最初の頃に撮られたロシアのジャーナリストたちとゼレンスキーとのオンライン・インタビューは信じられないほどの人気でした。ロシア政府はこのインタビューをブロックしましたが、皆、ブロックをかいくぐって見ました。ゼレンスキーは英雄です。彼は国民と共にいます。地下壕に隠れ、人前に出ることを怖がるわが国の指導者とは違います。ウクライナ政府の許可と、国境からのエスコートが必要です。どうか支援をお願いします」 ドキドキしながらメッセージを送り、返信を待った。何時間か後、簡潔な答えが来た。 「今は忙しいですが、考えてみましょう」 春の暖かい太陽が照っていた。ピーターは小さなモルドヴァのレストランのオープンテラスでわたしの前に座っていた。彼は休む間もなくウクライナからのあらゆるニュースをモニターしていた。 「明日はきっとキーウに行けると思うわ」わたしは明るく言った。 「それはいい。エスコートをつけてくれるといいんですがね。そうじゃないと、最初のチェックポイントで逮捕されてしまいます。あなたはロシアのパスポートだということをお忘れなく」 「でもパスポートには、わたしがオデーサ生まれだって書いてあるわ。父はウクライナ人だし」 ピーターは、無邪気な子供だといわんばかりにわたしを見た。
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