文化大革命時は隠し通した……。先祖からの宝物、銀と珊瑚を施した豪華な鞍
日本の3倍という広大な面積を占める内モンゴル自治区。その北に面し、同じモンゴル民族でつくるモンゴル国が独立国家であるのに対し、内モンゴル自治区は中国の統治下に置かれ、近年目覚しい経済発展を遂げています。しかし、その一方で、遊牧民としての生活や独自の文化、風土が失われてきているといいます。 内モンゴル出身で日本在住の写真家、アラタンホヤガさんはそうした故郷の姿を記録しようとシャッターを切り続けています。内モンゴルはどんなところで、どんな変化が起こっているのか。 アラタンホヤガさんの写真と文章で紹介していきます。
モンゴルの祭りといえば、ナーダムだ。モンゴル国では毎年7月11日の革命記念日に行われるナーダムは国家主催となっていて、世界中から観光客が押し寄せる一大イベントだ。 内モンゴルではモンゴル国のように決まった日程で行われるナーダムはほとんどなく、毎年各地によって実施日が異なる。ただ、7月から8月の短い期間に行われることが基本だ。
2012年の夏、アバガ・ホショーのナーダムを撮影した。その時、若い男性と出会った。彼は白い馬に美しい鞍をつけて、ナーダムの開幕式で出番を待っていた。鞍は全体的に銀が施され、珊瑚や他の宝石も飾られていた。 遊牧民は金銀の飾りがとても好きで、大切にしてきた。男性は必ず大金をはたいて銀の鞍を作り、銀のナイフと銀の火打ちをデールの帯からぶら下げて歩く。女性は、銀の豪華な髪飾りを持っていた。しかし、文化大革命の際にほとんど、没収され、なくなってしまった。 彼の話によれば、この鞍も先祖からの宝物だった。文化大革命の時はなんとか隠し通して難を逃れ、彼の代まで伝わってきた。普段はだれにも見せないが、今回はナーダムの開幕式に参加するため、初めて使用しているということだった。(つづく) ※この記事はTHE PAGEの写真家・アラタンホヤガさんの「【写真特集】故郷内モンゴル消えゆく遊牧文化を撮る―アラタンホヤガ第12回」の一部を抜粋しました。
---------- アラタンホヤガ(ALATENGHUYIGA) 1977年 内モンゴル生まれ 2001年 来日 2013年 日本写真芸術専門学校卒業 国内では『草原に生きるー内モンゴル・遊牧民の今日』、『遊牧民の肖像』と題した個展や写真雑誌で活動。中国少数民族写真家受賞作品展など中国でも作品を発表している。 主な受賞:2013年度三木淳賞奨励賞、同フォトプレミオ入賞、2015年第1回中国少数民族写真家賞入賞、2017年第2回中国少数民族写真家賞入賞など。