Gグローブ賞4冠『SHOGUN 将軍』旋風止まらず…個性豊かな登場人物と丁寧な“日本の描き方”で快進撃「自分を信じて決して諦めないでください」
戦国時代末期、日本の覇権をかけて武将たちが攻防を繰り広げるストーリーが展開し、ハリウッドで制作されながらもプロデューサー・主演として“正しい日本”を伝えるために尽力した真田広之の思いも結実して、配信開始すると瞬く間に全世界から大きな反響を呼んだ「SHOGUN 将軍」。2024年9月には、TV界のアカデミー賞と謳われる「第76回エミー賞」で最多25部門にノミネートされる中で史上最多18冠を達成した。それを記念して11月には第1話と第2話が全国劇場で上映されるというお祭り的な盛り上がりを見せた。2024年12月にノミネート作品等が発表された「第82回ゴールデングローブ賞」のテレビドラマ部門にて、真田広之が主演男優賞、アンナ・サワイが主演女優賞、浅野忠信が助演男優賞、ドラマ自体が作品賞の候補に。そして日本時間の1月6日、アメリカ・ロサンゼルスで同賞の授賞式が行われ、ノミネートされた4部門全てで受賞を果たすなど、2025年、新しい年を迎えても「SHOGUN 将軍」の快進撃は続いている。(以下、ネタバレを含みます) 【写真】スピーチも話題沸騰!「第82回ゴールデングローブ賞」で助演男優賞を獲得してトロフィーを掲げる浅野忠信 ■「SHOGUN 将軍」とは? 「SHOGUN 将軍」は、ジェームズ・クラベルの小説を映画「トップガン マーヴェリック」(2022年)などで知られるジャスティン・マークスらが新たに映像化し、日本ではディズニープラスのスターで独占配信された他、全世界にも配信が行われた。 西暦1600年、天下分け目の戦いを前に、“五大老”の1人である武将・吉井虎永(真田)が、伊豆に漂着したイギリス人航海士、後に“按針”と呼ばれるジョン・ブラックソーン(コズモ・ジャーヴィス)や通詞(通訳)を務めるキリシタンの戸田鞠子(アンナ・サワイ)らと共に、他の4人の大名と対峙(たいじ)する様が描かれている。 「SHOGUN 将軍」の魅力はたくさんあるが、その一つは見るものを引きつけるストーリー。物語の中で、キリスト教の布教が描かれているシーンを多く目にするが、仏教と神道を慣習としていた日本に、カトリック教会の修道会であるイエズス会が渡来し、キリスト教を広めていった。登場する五大老の内の2人がキリシタン大名として描かれているように、実は結構な広がりを見せていた。しかし、ブラックソーンの祖国・イギリスやオランダは同じキリスト教でも“プロテスタント”で、日本でカトリックがのさばっている状況を許せず、虎永にカトリックが何を企んでいるのかを知らせるなど、カトリック対プロテスタントという勢力争いも見ることができる。 そして個性あふれる登場人物たちも大きな魅力。真田が演じる虎永は徳川家康からインスパイアされた人物で、関東を治める藩主。天性のリーダー気質を持ち、冷静沈着で、完璧主義な戦略家だ。なかなか本心が見えないといったところも含めてミステリアスな存在となっている。 ジャーヴィスが演じたブラックソーン/按針は、“侍”の称号を初めて得た外国人航海士のウィリアム・アダムスにインスパイアされた人物。アジアにおけるポルトガルとスペインの貿易を妨害する使命を与えられるが2年の航海を経て、伊豆の樫木藪重(浅野)の領地に漂着する。そこで虎永に目をかけられ、按針の名を得て、日本と侍の生き様について学んでいく。 サワイが演じる戸田鞠子は、明智光秀の三女・細川ガラシャにインスパイアされた人物で、敬虔なキリシタン。波乱に満ちた過去を持っていて、謎めいた雰囲気の女性である。虎永からブラックソーンの通詞をするよう命じられ、それがきっかけで彼女の運命が変わっていった。凛とした雰囲気で、自身の中に強い意志を持っており、視聴者を魅了。最新話が配信されるたびに、鞠子ファンが増えていき、SNSには海外からも“Mariko-sama”という文字が大量に現れていた。 ■ストーリーが進むにつれて存在感を増すキャラクターたち 本作での女性の描かれ方も大きな反響があり、淀君からインスパイアされた落葉の方(二階堂ふみ)の威厳に満ちた姿、言葉数は多くないが、表情や所作、視線の配り方などでいろんな感情が伝わってくる。演じた二階堂の凄さを改めて感じることができた。穂志もえかが演じた宇佐見藤は、歴史上の人物をモデルにしたキャラクターではないが、戦国時代における女性の立場がどのようなものだったのかがうかがえる存在で、おっとりしている性格ではあるものの、時折見せる“強さ”にドキッとさせられるシーンもあった。海外の視聴者も含め、藤様“Fuji-sama”ファンも多いことはSNSなどからも分かる。 ストーリーが進むごとに興味深さもどんどん増していったのが浅野演じる樫木藪重だった。藪重も歴史上の人物からインスパイアされたキャラクターではないが、伊豆を支配する武将で、虎永の家臣でありながらも、他の大老たちとも接点を持ち、状況を読んでどちらに付こうかを常に考えている風見鶏のようなところがある野心家。自身の領地にブラックソーンが漂着し、船に大量の武器や大砲などが積み込まれているのを知って、チャンスとばかりに張り切ったり、感情が表に出やすいタイプではある。ただし、表面的な部分と内面は違っていたりするので用心が必要な人物だ。 ■ハリウッド制作でも“日本の描き方”に一切妥協なし ストーリー、登場人物、そして映像での表現。主演の真田がプロデューサーにも名を連ね、“正しい日本を伝える”という考えの下、脚本や時代考証、実際の撮影現場においても都度確認を行い、納得いくまでじっくりと作られたというのが、多くの人から受け入れられた理由だと言える。武将だけでなく、基本的に日本人役は日本人の役者を起用し、せりふも大半が日本語という、ハリウッドの撮影の良さを生かしながらも、日本の作品、戦国スペクタクルの醍醐味(だいごみ)を表現するために一切の妥協はなかった。 結果、このほどゴールデングローブ賞でも作品賞をはじめ、4部門を受賞。真田は「これまで私の人生に関わってくださったすべての皆さんに感謝を伝えたいです。皆さんのおかげで私はここにいます」と感謝し、「自分を信じて決して諦めないでください」と若い世代にエールを送った。 浅野は「Maybe you don’t know me.(訳:たぶん皆さんは私のことを知らないと思いますが)」というユニークな語り出しで、「大きなプレゼントを頂きました。ありがとうございます!」とガッツポーズ。“Yabushige”と同じように“Tadanobu Asano”の名前も多くの人の中に刻まれた。サワイは投票した人たちへの感謝を伝えつつ、「優れた脚本がなければ、この演技を披露することは不可能だったと思います」と脚本家チームへの感謝も伝えた。 シーズン2、3の制作も決定している「SHOGUN 将軍」。ゴールデングローブ賞4冠は、来るべき新シーズンの配信に備えて「SHOGUN 将軍」シーズン1をチェックする良い機会ではないだろうか。 ◆文=田中隆信