【甲子園】2年生左腕の投打にわたる活躍で勝利した早実 優勝した06年夏を思い出した指揮官
「高校生の無限大の力」
【第106回全国高等学校野球選手権大会】 2回戦 8月15日 第3試合 早実(西東京)1x-0鶴岡東(山形) (延長10回タイブレーク) 早実が2回戦を突破し、3回戦へ駒を進めた。和泉実監督は、驚きを隠せない。 「いや~あ、ビックリしました。このチームは、こういう展開で勝ったことがありません。1対0、完封、延長(勝利)。1回もないことを、甲子園で成し遂げた。高校生の無限大の力。勢い、経験が強くしている」 以下は、西東京大会からの戦績である。 [3回戦]6-4明大八王子(延長10回) [4回戦]8-1上水(7回コールド) [5回戦]6-1日本学園 (継続試合、9回表二死から再開) [準々決勝]14-13国学院久我山 [準決勝]14-3日大二(5回コールド) [決勝]10-9日大三 [甲子園1回戦]8-4鳴門渦潮(徳島) スコアを見ても分かるように、2024年夏の早実は「打撃のチーム」が定着していた。地方大会初戦から苦しみ、継続試合、打撃戦とさまざまなケースを味わってきた。 この日は別のチームだった。0対0のまま延長タイブレークへ。早実の先発左腕・中村心大(2年)は10回表を無失点に抑えると、足がつった。一死満塁から打順が回ってきたが、治療のため、両チームともベンチに下がり、時間が割かれた。「ここまで集中している中村にかけよう」(和泉監督)。期待に応えた中村は初球をたたき、右翼オーバーのサヨナラ打で決着をつけた。中村は公式戦初完封である。和泉監督は快投の要因をこう語る。 「甲子園が、そうさせてくれた。櫻井君が、そうさせてくれた」
鶴岡東の先発左腕・櫻井椿稀(3年)は9回まで4安打無失点と、早実打線をほぼ完全に封じていた。10回裏に力尽きたものの、見事な投球だった。和泉監督は2006年夏を思い出したという。駒大苫小牧(南北海道)との頂上決戦は延長15回引き分け(1対1)。早実が翌日の再試合を4対3で制して、初の夏制覇を遂げた。 「あのときは、マー君(田中将大、楽天)がすごい投球で、斎藤(斎藤佑樹、元日本ハム)が成長させてもらった。今日も櫻井君が素晴らしいピッチングで、下級生の中村も『負けられない』と高め合うことができたと思います」 和泉監督は言った。 「頼もしいエース誕生という感じがしました」 百戦錬磨の指揮官が認めた「エース」の称号。しかし、手綱を締める。報道陣から「手応え」について問われると、和泉監督は「今度、分かる」と言った。「先は見えない。一戦一戦。あのとき(06年夏)もそうだった」。中1日でベスト8をかけた3回戦を控える。中村は今春、左肘の故障で投げられず、夏の西東京大会はぶっつけ本番だった。この日は144球を投げ抜き、疲労は相当のはずである。中村のコンディション次第だが、勢いだけではない、早実のチーム力が試されるときである。 文=岡本朋祐
週刊ベースボール