市場予想を上回った個人消費は日銀にとって「渡りに船」、年内最後の利上げはあるのか?
■ 名目GDPと実質GDPの格差が広がる理由 上述したように、今回の結果を日銀がどう汲み取るかが最大の関心事となる。これで実質GDP成長率は2四半期連続のプラスであり、堅調と言い張れないことはない。しかし、過去2年間の円安を通じ、家計部門を中心としてインフレの痛みが浸透しつつあるのも間違いない。 図表(3)に示すように、名目GDPと実質GDPの名実格差は拡大の一途を辿っている。 名目GDPに対する実質GDPの規模は着実に小さくなっている。定額減税を受けた今期の仕上がりはさておき、インフレ税により可処分所得が目減りし、基本的には個人消費が思うように伸びていないというのが近年の日本で起きていることだろう。 円安を背景としてインバウンド需要が高まり、外国人の消費・投資意欲に近い財・サービスから値段が押し上げられ、日本人の消費・投資意欲が抑制されているという側面もある。 円安を通じて日本はインフレを輸入している状態であり、そのインフレに見合った名目賃金の上昇が確保されていないので実質GDPは思うように伸びていかない。 雇用者報酬を見れば、名目で伸びている一方、実質で減っているのだから必然の帰結である(図表(4))。10~12月期は定額減税や自動車販売にまつわる一時的押し上げ効果が剥落するため個人消費は減少に転じる可能性もある。
■ 結局、処方箋は利上げか もちろん、だから「日銀は利上げすべきではない」という話ではない。7~9月期のGDPにおける個人消費は非常に強いものであったが、その数字を理由に利上げを強弁するのは無理筋だという話だ。 利上げがあるとすれば7月同様、「想定外の円安によるインフレリスクの高まり」と整理する方が腑に落ちるし、その可能性が高まっているのは間違いない。今後、個人消費が弱含むとしても、それは恐らく円安経由でインフレを輸入していることに起因しているはずであり、どの道、利上げは処方箋として検討せざるを得ない。 もちろん、米11月雇用統計を筆頭にまだ見るべき指標はたくさんあるため、本稿執筆時点で確たる日銀プレビューはできる状況にないが、1月の展望レポートを待たず、12月に利上げが行われる可能性は相応に高いように思われる。 ※寄稿はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です。また、2024年11月20日時点の分析です 唐鎌大輔(からかま・だいすけ) みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト 2004年慶応義塾大学卒業後、日本貿易振興機構(JETRO)入構。日本経済研究センターを経て欧州委員会経済金融総局(ベルギー)に出向し、「EU経済見通し」の作成やユーロ導入10周年記念論文の執筆などに携わった。2008年10月から、みずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)で為替市場を中心とする経済・金融分析を担当。著書に『欧州リスク―日本化・円化・日銀化』(2014年、東洋経済新報社)、『ECB 欧州中央銀行:組織、戦略から銀行監督まで』(2017年、東洋経済新報社)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(2022年、日経BP 日本経済新聞出版)。
唐鎌 大輔