考察5話『海に眠るダイヤモンド』賢将(清水尋也)を襲う噂とイメージ
賢将(清水尋也)と鉱員たちとの溝が深まる端島。現代ではとうとういづみ(宮本信子)の正体が明らかに! 日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』(TBS 毎週日曜よる9時~)5話を、ドラマを愛するライター・釣木文恵と、イラストレーターのオカヤイヅミが振り返ります。
協力的な孫世代によっていづみの正体を知る玲央
「あ、朝子~ッ!」とラストで思わず叫んでしまった第5話。現代では玲央(神木隆之介)がいづみ(宮本信子)の孫である星也(豆原一成)、千景(片岡凜)とともに、いづみと関係があったと思われる端島の「荒木鉄平(神木隆之介・二役)」について調べる。いづみの子世代である和馬(尾美としのり)たちは突然現れ、自分たち姉弟の誰かが継ぐつもりだった会社をのっとろうとしている玲央に敵意をむき出しにしているが、孫世代はそんな状況を楽しんでいるようだ。いづみと玲央のDNA鑑定結果も先んじて3人で勝手に確認してしまう。結果、いづみと玲央の間に血縁関係は認められなかった。さらに、5話ラストで玲央は「いづみ」が名前ではなく旧姓「出水」であることを知る。そこで明かされたいづみの名前は「朝子」……! 朝子(杉咲花)がいづみだったとは! 驚きのあとにわきあがってきたのは、鉄平と朝子は結ばれなかったのか、という悲しみ。昭和時代の朝子の、子どもの頃に鉄平からもらった空き瓶を大切にしている、怪我した鉄平に腕章をつけてあげて照れながらひっそりと喜ぶ、あのかわいらしい恋が実らなかったのか。鉄平と朝子、賢将(清水尋也)と百合子(土屋太鳳)、進平(斎藤工)とリナ(池田エライザ)という組み合わせに収まっていくかと思ったのに……。とはいえ、まだ何もかもが明かされたわけではない。鉄平と玲央はどんな関係なのか、謎は依然残っている。
根拠のない噂が賢将を追い詰める
「一島一家」、島全体がひとつの家族のような絆で結ばれているという言葉があった端島。しかし、5話では「全日本炭鉱労働組合」の意向に従って行った「部分ストライキ」をきっかけに、鷹羽鉱業側の賢将親子と、雇用される側の鉱員たちとの溝が深まってしまう。 部分ストライキを宣言した鉱員側に対し、鷹羽鉱業は鉱山のロックアウトを実施。鉱員はバリケードを破ったものの、その際に有刺鉄線で怪我した鉱員が続出する。鉱員たちは「そもそも前の炭鉱長ならロックアウトを選ばなかった」「有刺鉄線にしたのは賢将だ」と、不信感を募らせていく。瓶を投げられ、怪我をさせられそうになった賢将はとうとう鉱員・小鉄(若林時英)とケンカをしてしまう。 SNSも、ましてやインターネットもパソコンもない時代の端島。しかし、根拠のない噂とイメージが拡散し、いつの間にか真実かのように信じられ、それが言葉の、あるいは直接の暴力となって個人を襲うようすは、まるで現在の状況を観ているようだ。 もう取り返しがつかないほどに深まった溝を埋めたのは、鉄平の父・一平(國村隼)。一家で端島に赴任してきたものの、母が早々に家を出てしまい、父子二人で広い家に暮らしていた子どもの賢将にカレーを食べさせ、我が子のようにかわいがっていた一平夫妻。鉱員たちが賢将に嫌味ばかり言うなか、一平は「うちのカレー、いつ食いに来るんだよ」と声をかける。 「みんな、知らなかったのか? あいつはな、うちの家族なんだよ。俺の自慢の息子みてぇなもんだ、な?」 鉱員の皆から慕われている一平が「一島一家」を体現するこのシーン。さまざまな感情を抱えながら、果てしない包容力を見せる國村隼の表情が印象的だった。 一方、冷酷に見える辰雄(沢村一樹)も、一概に悪い父親とは思えない。おそらくは妻が島を離れたあとも、子どものためと脇目も振らず、必死に働いてきたのだろう。家庭のぬくもりを求めて鉄平の家に入り浸り、カレーをごちそうになっていた賢将を見て単純に「カレーが好き」だと思っているそのズレは、いかにも昭和の父親という感じがする。