『団地のふたり』に救われた…稀有な名作になった3つの理由とは? 「真似できる」と思わせてくれることの尊さ。魅力を徹底解説
ちょっと会話を入れるだけで、世界は広がる
全10話に理想として通底していたシーンが「ご近所コミュニケーションの大切さ」。 『団地のふたり』の舞台は、基本的に団地内。ここで日々起こるプチ事件を(高齢住人から見ると)若いふたりが、毎度解決していくのがドラマの軸だ。 高齢者たちの相手をするのは、もうドラマの定番。団地の近所の喫茶店で「ホットケーキをご馳走するから」と、ひたすら終わりなき話を聞かされるふたり。何か事件が起きるとすぐに自宅のチャイムが鳴るなっちゃん。これも良きコミュニケーション。 でもこれを自分たちができているかといえば、人間関係が希薄な都会では通用しない。田舎でも昔のようなあたたかさ…と書いて“お節介”は消えていると聞く。余分なことは言わず、触らず。トラブルの起きないように生きていくことが、スタンダードになった。 それでいいのか? と思う。東日本大震災でも日本が賞賛されたのは、近所付き合いによる避難所での助け合いだったといまだに語り継がれている。これが東京で起きたらどうだろう。自分のコミュニケーションを一度、見直したほうがいいかもしれない。 ちなみに私。田舎者の精神をフル発揮して、『サザエさん』のごとく周辺にはご近所づきあいがある。飲み屋に八百屋に魚屋に花屋。ちょっと会話を入れるだけで、世界は広がるので試してほしい。ただ近所をどスッピンで闊歩するのは夜中にならないと、できなくなること、お忘れなく。
ノエチとなっちゃんは団地内の中間管理職
そして「自分よりも若い人たちとのつき合い」もドラマが教えてくれたことのひとつ。父子家庭で娘が難しい年頃だと相談されれば、真摯に聞くふたり。同性カップルの破局による愚痴、ヤンママのストレス発散など、ふたりは先輩だけではなく後輩の話も受け止めているという、団地内の中間管理職。 高齢者たちへのケアは然としていて、私たちでさえも行う。が、 おばさんになると、自分よりも若い人と文化を合わせることを、つい食わず嫌いしてしまう。自分たちのペースで生活している方が何より楽だからだ。 でも彼らは自分にない視座を持っていて、色々教えてくれることがあることを忘れちゃいけない。もっと言えば、いつか自分も下の世代に助けられることだってあるのだから。ふたりのごとく、まずは「聞く」。うまくいかなかったら、また先輩に喫茶店で慰めてもらえばいい。 書き連ねればキリはないが、最終的に私たち視聴者はいつの間にかあの団地の住人になっていた。最終話、どうやら団地の建て替え計画は進み、なっちゃんは静岡へ? そしてノエチは無職に? と目が離せない。 騒動が終わって落ち着いた頃。またドラマでふたりに会えますように。 【著者プロフィール:小林久乃】 出版社勤務後、独立。2019年「結婚してもしなくてもうるわしきかな人生」にて作家デビュー。最新刊は趣味であるドラマオタクの知識をフルに活かした「ベスト・オブ・平成ドラマ!」。現在はエッセイ、コラムの執筆、各メディア構成、編集、プロモーション業などを生業とする、正々堂々の独身。
小林久乃