人気漫画『ゴールデン・カムイ』で注目される北海道の先住民族アイヌとは?
アイヌ(ainu)とは、アイヌ語で「人」もしくは「男性」を表す言葉であり、同時に民族集団の名称としても用いられる。人気漫画『ゴールデン・カムイ』(野田サトル)が活写するように、アイヌの人びとは独自の言語・文化を持して、明治の時代を迎えた。 アイヌとしていまを生きておられる人びとは、北海道の統計で約2万4000人、東京都の統計で約2700人とされる。北海道の人口が約530万人だから、北海道においても、また日本全体を考えても、わが国の現代社会では、圧倒的なマイノリティー(少数者)だ。
アイヌが圧倒的マイノリティーになってしまった理由とは?
マイノリティーであることは、単に人口の面だけではない。独自のことば・文化・生活様式・歴史といった伝統は、わが国の公教育で触れられることは少なく、その継承はきわめて困難な状況にある。 アイヌの人びとが圧倒的なマイノリティーとなる状況は、『ゴールデン・カムイ』の描く明治時代を大きな画期として強まった。幕末の1854年に10万人に満たなかった(うちアイヌ約1万8000人)北海道の人口は、1901(明治34)年には100万人を越えた(うちアイヌ約1万7000人)。本州以南からの拓殖移民政策が、実を結んだのである。その過程で、アイヌ社会の基盤であった海や川の漁場、山や平野の狩猟地に関する権利は、ほぼ顧みられることはなかった。北海道全体を「無主地」とみなし国有地化し、資本家や移民たちへ配分していったのが、近代北海道の拓殖政策の眼目だったからである。 『ゴールデン・カムイ』の描くアイヌの伝統的な日常世界は、こうしたなかで徐々に後景に退いていくことになる。国は、アイヌがアイヌとして近代社会に参入することを、基本的に許さなかった。言語・文化・生活様式ともに日本化(=和風への同化)することを求めたのである。現在、アイヌ語のみを使用言語とするコミュニティーが存在しないのも、明治以来150年の「同化」政策の歴史を踏まえて理解する必要がある。また、日本全国津々浦々がそうであるように、明治以前のままの伝統的生活を送るコミュニティーも、当然ながら現在は存在しない。 ただし同時期に、たとえば英国聖公会の伝道に応じ、これを通じた近代化を模索し、アイヌ語のローマ字表記を生み出すなどの努力がアイヌ社会内部からみられたのは、驚くべき出来事といってよい。必ずしも日本を介さない、アイヌ独自の近代化の可能性も、確かに存在したのである。 もちろんこのほかに、アイヌの伝統を持しつつ日本社会の公民としての近代化を目指した、困難で貴重な試みも、数多く重ねられてきた。その延長線上に、いまを生きるアイヌの人びとの暮らしがある。国の対アイヌ政策が、1997年のいわゆる「アイヌ文化振興法」制定を画期に、「アイヌの人々の民族としての誇りが尊重される社会の実現を図り、あわせて我が国の多様な文化の発展に寄与することを目的とする」(同法第1条)ことに大きく転換したのも、こうした動きと無縁ではない。