特集「キャッチ」戦争遺跡が残る島がまるごと美術館に 戦闘機のプロペラに彫刻家が未来を刻む 福岡・宗像市
FBS福岡放送
特集キャッチです。福岡県宗像市で、大型の彫刻などを展示し町や島そのものを美術館にする芸術祭が開かれています。会場のひとつが豊かな自然と戦争遺跡が残る大島です。島の歴史に思いをはせ、彫刻家が生み出したアートとは。
福岡県宗像市の神湊(こうのみなと)からフェリーで25分の大島には、世界遺産に登録された「『神宿る島』宗像・沖ノ島と関連遺産群」のひとつ、宗像大社の中津宮があります。 人口およそ550人の島は、年々、過疎化が進んでいます。 そんな島にやってきたのが現代アートです。芸術を楽しめる場所を創ろうと、市民が中心となって企画された芸術祭。いたるところにアートが点在し、島がまるごと美術館になりました。 ■大島在住 40代 「文化がやってきてくれるのは、すごくうれしいです。」 ■大島在住 9歳 「観光客が増えて移住者が増えたら、友達もいっぱいできる。」 この芸術祭に出展する彫刻家の中西秀明さん(64)です。 ■彫刻家・中西秀明さん 「板をたたくことでそこに模様をつけて自分の痕跡を残す。それが自分のいのちの一部。」 魂を刻む制作風景に密着しました。
新宮町にある中西さんの工房です。この道およそ40年、中西さんは主に金属で立体作品を制作してきました。 丁寧にホコリを落としているのは、戦闘機についていた木製のプロペラです。 ■中西さん 「戦後すぐに宗像の大島沖で芦屋の漁師の漁船の網に引っかかって、それを持ち帰ってずっと取っていたものを私が譲り受けた。」 戦闘機の名前を示す“甲式四型”に、“昭和4年”の文字も刻まれています。 ■中西さん 「私が見るかぎり手作業で削り出しっていう、木を積層してくっつけたものを削り出して作っている。強度だけじゃなくて実用で飛ばないといけない。ちょっとアール(曲線)がくるっただけで、プロペラの回転がくるったりする。削り出しの微妙なアールとか線がすごく素晴らしい。」 このプロペラを使った作品を芸術祭に出します。失われた片側には、新たに金属で鳥の羽を作ることにしました。 ■中西さん 「片方は戦争を意味して、もう片方は逆に平和の象徴である鳥。普通だったら鳩なんですが、オオミズナギドリという宗像市の“市の鳥”になっている鳥がいる。その羽をイメージした。」 大島にいまも残る戦争遺跡「大島砲台」です。かつて、4つの大砲と、敵艦の距離やスピードをはかる観測所などがありました。 旧日本陸軍が、玄海灘を通る敵艦を大砲で阻止するために造ったものです。歴史を刻むこの場所に作品は展示されます。 中西さんは特別な思いを重ねていました。 ■中西さん 「私の父が戦時中に大刀洗で特攻機を造っていた人間で。すごくかっこいいなと思ったのですが、よくよく考えると戦争のための飛行機であって、だから物心ついて分かるようになった時には、いろんな複雑な思いではありました。平和の大事さをすごく思っています。」 羽の形に切り取った金属を力強くたたきつけます。およそ200枚、1つ1つ手作業です。 ■中西さん 「たたくことによって凹凸をつけて立体になることで、太陽の角度によっていろんな表情が見えると思います。」 空間を揺さぶる力強い作業から、やさしい光の表情が生まれました。