坂本龍一、刻み続ける時と記憶。最新にして最後の舞台作品『TIME』笙奏者 宮田まゆみが語る坂本との思い出
宮田まゆみ(みやた・まゆみ) 東洋の伝統楽器「笙」を国際的に広めた第一人者。国立音楽大学ピアノ科卒業後、雅楽を学ぶ。古典雅楽はもとより現代音楽、オーケストラとの共演などにより「笙」の多彩な可能性を積極的に追求。武満徹、ジョン・ケージ、ヘルムート・ラッヘンマン、細川俊夫など現代作品の初演も多数。1998年長野オリンピック開会式での「君が代」の演奏は全世界の注目を浴びた 水が張られた舞台は、水鏡のように光を反射している。静けさの中からかすかな音が生まれ、日本古来の管楽器である笙を祈りの形で捧げ持った宮田まゆみが舞台をゆっくりと横切っていく。宮田は坂本とのやりとりについてこう語る。 「最初に坂本さんから、静かに演奏してほしいというリクエストがありました。暗いところからすでに音は始まり、しだいに耳に聴こえる音になる。どこからともなく虚空から音が生まれ、だんだんと世界に現れ、最後は暗闇に消えていく。そのような感じをお望みなのだなと思いました。それは笙にとっては自然なことで、なかでも古典の演奏は、何もないところからわずかに息が始まって音の形になり、最後はまた息だけになって静寂の中に消えていく。耳に聴こえている音はこの世の仮の姿ともいえます」 舞台では、やがて笙の音色がさえざえとした響きに変わり、テクノミュージックにも似た未来的な音に聴こえる瞬間がある。坂本自身が過去に「宇宙人の音だと思った」と語ったように、どこか現世のものではないような音色だ。山口県のアートセンターYCAMで宮田とセッションした際、宮田の笙の演奏に、「坂本さんは究極の抽象的な音だと感じたようだ」と高谷は語る。宮田はこう振り返る。 「YCAMの展示室や階段を歩きながら演奏したのですが、坂本さんは空間の中であちこちに音が反響して、音の塊が移動していくことに興味をもたれたのかもしれません。古典の笙の独奏を聴くと、響きの焦点が空間の中で予想外に移動します。誰がつくったのかもわからず時代性も感じさせないその曲は、宇宙の音楽という感じでしょうか。人間の情緒を表現するのではなく、自然と一体になるような感覚で演奏されてきたのです。自分自身も、人間ではなく自然界のひとつとなって、自然に対して音を返していくように演奏したいと思っています」 FOR MAYUMI MIYATA:HAIR & MAKEUP BY MAYUMI TAKAHASHI AT PRELL
RYUICHI SAKAMOTO + SHIRO TAKATANI 「TIME」 音楽+コンセプト:坂本龍一 ヴィジュアルデザイン+コンセプト:高谷史郎 出演:田中泯、宮田まゆみ、石原淋 期間: 3 月28日~4 月14日 東京・新国立劇場(中劇場) 4 月27日~4 月28日 京都・ロームシアター京都(メインホール) 特別協賛:シャボン玉石けん お問い合わせ先:パルコステージ TEL.03-3477-5858 BY CHIE SUMIYOSHI