<三南プライド・’21センバツ>高校野球界の先駆け/下 ICTを活用 目標数値化し練習 /静岡
◇感覚だけに頼らず 頭で考える 「手応えがよくない。目線がずれた気がするが、なぜだろう」。打撃練習中の前田銀治選手(2年)は打席のすぐ横に置かれたテレビの画面をジッと見つめながら考えていた。画面が数十秒前の自身のフォームを映し出す。「軸足がブレているな」。納得すると、改めて打席でバットを構え、ボールを打ち返し始めた。 三島南高野球部は打撃練習に映像遅延装置・カコロクを活用する。撮影した映像を数十秒後に再生する機能がある。選手は打席でボールを打つと、テレビの前に移動。そのタイミングで、スイングの映像が流れる。フォームを確認すると、打席に戻る。カコロクにより、リアルタイムで動作を確認することが可能になった。 前田選手は「見つかった課題をすぐに次の打席に生かせる」と効果を実感。深瀬涼太捕手(1年)も「自分の打撃は自分で確認できない。けれど、映像があれば、客観的に見られる。それがよいところ」と評価する。 三島南高は創立100年目を迎えた2018年に全教室に電子黒板機能付きプロジェクターを設置。ICT(情報通信技術)を用いた教育に力を入れている。野球部も校費でカコロクが導入された。公立、私立を問わず、県内の高校でカコロクを有する野球部はまだ珍しい。 稲木恵介監督(41)はカコロクによるフォームの客観視に加え、もう一つ重視することがある。それが「目標の数値化、可視化」だ。チームは雨天でグラウンドが使えないとき、室内で専用の機器を用いてスイングスピードを計測することが恒例となっている。「『強く振れ』という指示は感覚でしかない。感覚を数値に変えることで打撃練習などの効果が上がりやすくなる」と強調する。 このほか、練習の一環として通うジムで月に一度、身長と体重をはかり、バランスをチェック。選手たちはさまざまな数値をもとに、おのおので目指すべき具体的な目標を設定する。すると、選手たちの間で数値を競い、高め合おうとする雰囲気が自然と生まれるという。 感覚だけに頼らず、頭で考え、明確な目標を掲げて、根拠に裏打ちされた練習を重ねる。どこか当たり前のようで、新しい取り組みによって着実に力をつけた選手たち。20年秋の県大会は4強に進出した。晴れの舞台で全国の猛者を相手に虎視眈々(たんたん)と「ジャイアント・キリング(番狂わせ)」(稲木監督)を狙う。【深野麟之介】