防衛増税は所得税先送り 公明が反対、自民内にも消極論 安全保障に深刻な影響も
法人、たばこ、所得の3税を対象とした防衛力強化に伴う増税について、自民、公明両党は令和7年度税制改正でも最終的な結論を出せず、所得税の増税時期決定を先送りした。「手取り増」を掲げる国民民主党への支持が高まる中、与党内からも「所得増税自体を諦めるべきだ」との声すら上がる。財源確保の枠組み自体を見直すような事態になれば、日本の安全保障の充実もおぼつかなくなる。 【写真】〝華麗なる宮沢一族〟。伯父は宮沢喜一元首相 「法人税とたばこ税だけでも決められたことはある程度評価できる」 自民の宮沢洋一税制調査会長は13日、記者団に、こう強調した。「予定通り3税一体で決められるのがベストだった」とも述べ、所得税の増税時期を決着できなかったことへの悔いもにじませた。 防衛増税の実施が決まったのは2年前の5年度改正時だ。政府は将来の防衛力確保のため、9年度までの5年間で約14・6兆円の追加財源が必要と試算。このうち1兆円強を3税の増税でまかなうとした。 増税時期について、石破茂首相は10月、今回の7年度改正で決着をつける考えを表明した。だが、衆院選で自民、公明両党は少数与党に転落した。 7年度当初予算編成までのスケジュールを考慮すると、税制改正協議に国民民主を引き込むことは不可欠だった。その国民民主は「手取り増」や「減税」をうたって勢力を拡大しただけに、防衛増税の議論にも距離を取っていた。 「来夏に参院選も控える中、所得税を上げられるのか」。議席数を大幅に減らした公明内からも、所得増税の先送り論が浮上した。税収が想定より上振れており、法人税とたばこ税の増税で1兆円程度を確保できる見通しが立ったことも後押しし、自民も先送りを容認した。 長期化する物価高や円安の影響で、国民の増税に対する抵抗感は強まる一方だ。岸田文雄前首相が「増税メガネ」と揶揄され、支持率を急落させたことも与党にとっては苦い記憶として残る。 ある与党税調幹部は「慎重にやらないと、石破茂政権が倒れる。所得増税は諦めたほうがいい」と言い切る。8年度改正で決着を付けられるかは見通せない。 もっとも、税収の上振れは安定的財源とはいえず、所得増税を見送るとしても別の財源の確保は必須だ。ウクライナに侵略したロシアに北朝鮮が協力し、米国ではトランプ次期大統領の就任を控えるなど国際情勢は激動期を迎えており、これ以上の決断の先送りは、日本の安全保障に深刻な影響を及ぼす危険性をはらんでいる。(根本和哉)